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映画・演劇のレビュー

『もらとりあむタマ子』

2013-12-26 20:37:29 | 映画
 期待通りの脱力系映画。これを見ながら山下敦弘監督の初期作品である『どんてん生活』を思い出した。もちろんあそこまではやらないけど、アイドル前田敦子によくぞまぁこんなことをさせたものだ。でも、彼女自身がこのキャラクターを思い切り楽しんで演じている気もする。彼女はただのかわいいだけのアイドルではなく、根性の据わった役者なのである。いらっとして、舌打ちするシーンなんて、ハッとさせられる。半端じゃない。

 23歳、無職。家でブラブラしているだけ。そんな女の子を、彼女は実にリアルに見せる。別に悩んでいるとかいうわけではない。ただ、グータラしているだけ。父親と2人暮らし。家はスポーツ店をしている。昔からある地域の小さな運動具屋。父がひとりで切り盛りしている。家事も、食事もみんな父がする。では、彼女は何をしているのか、というと、居間でごろごろしているだけ。年頃の娘が、こんなのでいいのか、と言われそうだが、家族は父ひとりなので、何も言わない。最初はいろいろ言いたいこともあったようだけど、あきらめたみたいだ。

 それでは、そんなだらしないタマ子は嫌な女なのか、というと、そうではない。ただ、居心地のいいここで、タイトル通り、モラトリアムしている。78分という映画としてはいくぶん短めの上映時間の中で、1年間のスケッチが丁寧に、淡々と綴られていく。秋から始まり、夏の終わりまで、四季を通じて、どうでもいいような日常の生活を見せるのだ。大きなドラマなんてないけど、スクリーンからは目が離せない。甲府市のとある町を舞台にして、父と娘の日々が描かれる。田舎のどこにでもあるような風景を背景に半径1キロ(推定)程度のドラマが綴られる。あまりにありふれた風景で、だんだん見慣れてくる。まるでここに住んでいる気分にさせられる映画だ。

 ジャージを着たまま、ダラダラ自転車を漕ぐ姿(さすがに外に出るときは、ジャージではなかったかもなぁ)が、印象的。もちろん映画は、何も言わないし、映画の中でも、誰かからも言われない。(最後に父親から「夏が終わったら家を出て、一人暮らしをしなさい」とは言われるけど)でも、自分が一番よく知っている。このままではいけないことを。

 こういう映画が作られることが、今という時代の凄さだろう。映画のフットワークはどんどん軽くなる。敷居の低い映画がいくらでも作れる。でも、志は高い。と言うか、この映画の完成度の高さは、さすが山下監督だ、と言うしかない。

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