
75歳、認知症気味の引きこもり老人が30代の女性漫才師とコンビを組みデビューする。これはそんなお話。10年以上やっているのに売れない漫才コンビ。美人と超肥満女。主人公は肥満体の方。彼女がバイトとして行ったところがある老人の家。息子との二人暮らし。昼間は老人はひとりになる。そんな彼の世話をするのが彼女の仕事。
頑固な老人とぶつかり合いながら徐々に関係を育んでいく、とかいうようなよくあるパターンを想像した。まぁ、基本はその通りなのだけど、さらりとしたタッチで、悪くない。コミカルすぎてあざとい展開になりそうなお話だけど、バランスが良く、読みやすい。サクサク読み進める。楽しい。何が楽しいかというと、自分の人生に焦りを感じ始めた30代になる女性が打算も少しありつつも、老人と一緒に過ごす中で彼との掛け合いに喜びを見出し、やがてまさかの漫才コンビを実現させることになるという荒唐無稽な展開に説得力を持たせたことだ。嘘くさくならないのは、そこに無理がないからだ。それまでの彼女の漫才には無理があった。優しい相棒である相方(友人としては信頼していたけど)への信頼がなかった。だけど、このじいさんと一緒にいると驚きがあり、楽しい。そんな気分が彼女の芸に影響を与える。
人生の終わりを迎えたはずの老人が、そこから新しい人生をスタートさせる。輝き始める。自分だけではなく、側にいた彼女も輝く。たった数年間の活動ではあるけど、最後まで光を身に纏い、生きる。こういう奇跡はあっていいと思う。偶然が彼らを輝かせる。彼らが脚光を浴び駆け抜けた日々を直接描くのではない。そこに至るまでのなんでもない時間が丁寧に描かれるのだ。成功を描くことが目的ではない。そしてここから彼女の新しいスタートが始まる。ピン芸人としての自分に自信をもって立ち向かうことだろう。なんとも清々しい幕切れだ。ラストライブの後、施設に入所する彼の生きざまもまた清々しい。