※ ドイツ ‐ カッセル/ヴィルヘルムスヘーエ城・古典絵画館編(9) ‐ 中欧美術館絵画名作選(112)
カッセル美術館の小さな展示室に、<警報>を鳴らさせた小さい作品が架っていた。
その作品とは、オランダ絵画黄金期の巨匠レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)の 「猫のいる聖家族」(1646年/46.5×69cm)。
1642年に 「夜警」(アムステルダム国立美術館蔵)、後に世界三大集団肖像画のひとつと呼ばれる画期的な作品を描き上げたレンブラント。
この傑作を境に、輝かしかった画業も翳りを見せ始め、同年には最愛の妻サスキアを見送ってしまう。
それは、家庭生活が崩壊する兆しでもあった。
そんなかで、“ 聖家族 ” をテーマにした宗教画をいくつか遺してい、そのひとつが本作である。
窓の外は雪かも知れない寒い冬の一日、揺りかごの隣で幼子イエスを抱いたマリアは焚火で暖を取り、猫は皿の食べ物を狙って身を屈め、大工のヨセフは手鉋で木を削っている。
質素だが幸せ溢れる家族の日常の様子を描いた本作、だまし絵的な手前の赤いカーテンが情景を引き締めている。
同時期に本作とよく似た 「天使のいる聖家族」(1645年/117×91cm/エルミタージュ美術館蔵)を描いている。
そこでは、揺りかごの中で眠りにつくイエス、傍らで聖書を読みながら慈愛に満ちた眼差しで見守るマリア、そして背後におそらく牛車用の軛(くびき)を拵えるヨセフを配している。
この他にも、幼子に乳を含ませる聖母という珍しいテーマで描いた 「<聖家族>」(1634年/183×123cm/アルテ・ピナコテーク蔵)を。
また、夜の闇の中で飼い葉桶の中で眠る幼子、祖母アンナ、母マリア、人生における誕生、盛年、晩年のみっつの段階を演出したかのような 「<夜の聖家族>」(1642-48年/66.5×78cm/アムステルダム国立美術館蔵)も描いている。
とまれ、忘れ形見ティトウスを残し旅立ったサスキアを慈しむように、幸せ溢れる家族の姿を、“ 聖家族 ” を借りて描きたかったのだ、と思えば納得がいく。
Peter & Catherine’s Travel. Tour No.1432
※ 小編は、2009-06 に投稿した記事をリライト、再投稿したものです。
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