トレド大聖堂の正面、アユンタミエント広場から西へ石畳の路地を行く。
小さなコンデ広場の一角に小さな教会があって、意外にも長く列が延びていた。
入場時間が予め指定されていたらしく、案内人は、時間も気持ちも急いていたのかも知れない。
急いで向かったその素朴な教会に、どうして多くの人が訪れるのだろうか?
そのサント・トメ教会(写真上)。
エル・グレコ(1541-1614 /スペイン・マニエリスム)が、スペインでの地位を不動のものにした珠玉の一枚、傑作 「オルガス伯爵の埋葬」がある。
ベラスケス(1599-1660/スペイン・バロック)の 「ラスメニーナス」(プラド美術館蔵)、レンブラント(1606-1669/オランダ・オランダ絵画黄金期)の 「夜警」(アムステルダム国立美術館蔵)と並んで、世界三大集団肖像画のひとつとされている。
この小さな教会、荒れるに任せていたのをオルガス伯爵が再建したとされている。
小さな石段を昇り、ビロードの黒いカーテンで仕切られた部屋に入ると、右手の壁一面にその絵は架かっていた。
トレド出身のオルガス首長ドン・ゴンサロ・ルイス、正義感に満ちた騎士オルガス伯ルイスは信心深い篤志家でもあり、グレコの教会区教会でもあったサント・トメ教会のために多額の財産を遺している。
二部構成になったこの絵の上部には、その有徳の士オルガス伯の魂が天に召される場面。
下部には、トレドの守護聖人、聖エステバンと聖アグスティンが、オルガス伯爵を葬っているという奇跡を描いている。
現実と非現実の世界が同居する劇的な描写は、彼がイタリアで修得したものといわれている。
テンペラによって描かれているため、薄暗い礼拝堂の中にあっても、まるで、この絵自体が光を放っているかのように明るく色鮮やかに浮かび、思わず声を上げてしまった。
ちなみに、埋葬されるオルガス伯の周囲には、グレコ自身の姿や画家の息子であるホルヘ・マヌエルの姿も描かれている。
流浪の果てに、異邦人がたどり着いた安住の地、その光と影、“ 聖なる街。岩のように悲しみに充ちて重い、スペインの栄光 ” (セルバンテス)、エル・グレコ、心のトレドである。
現金なもの、消化不良で胸の辺りの痞(つか)えも傑作との出合いで解消。
感激覚めやらぬ気持ちで、97年初冬、古色蒼然たる佇まいの街、トレドと別れた。
Peter & Catherine’s Travel. Tour No.549
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