七日から立冬。
この日から立春の前日まで暦の上で季節は冬、山茶花が咲き始める頃とされているが、さて、実感に乏しい。
今の時期、中国の漢詩集・臥遊録(がゆうろく)が謳う、「秋の山明浄にして粧ふが如く」綾なす山肌が夕陽に映える季節が相応しい。
今、大阪で、「小野竹喬生誕120年展」(主催・毎日新聞など)が開かれている。
雨もよいの日の午後、その展覧会を訪ねた。
関西の美術館となれば京都をイメージしてしまう向きがあるが、この少し猥雑な商都大阪にも優れた美術館がある。
上町台地の一角、天王寺公園の高台に建つ大阪市立美術館。
住友家の本邸と慶沢園と呼ばれる庭園が、美術館の建設を目的に寄贈されたという。この美術館の正面からの景色、東京上野や京都岡崎でも味わうことのできない得難い財産である。
日本画は、速水御舟や山口華楊が好きで展覧会に出向いたことがあったが、華楊とほぼ同時代の画家小野竹喬は殆ど知らなかった。
今回、竹喬が晩年に描いた、芭蕉の自然観と融合させた連作《奥の細道句抄絵》が展示されていると知り足を運んでみた。
会場には、竹内栖鳳の塾生時代の「島二作(早春・冬の丘)」、近世文人画に憧れた時代の「冬日帳」、さりげない自然と向き合った「秋陽(新冬)」「奥入瀬の渓流」「深雪」など、同時代や後世の日本画家に少なからず影響を与えたことが伺える作品が並んでいた。
竹喬は茜色の画家ともされ、夕焼けの情景に親しんだとされる。
心象風景を大胆な朱で表現した「樹間の茜」、淡い朱が巧みな「池」や「日本の四季‐春の湖面」と「日本の四季‐京の灯」など、仄かな郷愁を与える。
そして、《奥の細道句抄絵》へと続く。
感銘を得たのは、大胆な構図で朱の夕陽を描いた「暑き日を海にいれたり最上川」と「あかあかと日は難面(つれなき)もあきの風」の二作。
横とう海と川、野分けにたわむ芒が、芭蕉の句意と重なる。
地味な作品だが、薄日さす梅雨の晴れ間、泥濘の道に難渋する様が淡彩で描かれた「笠島はいづこさつきのぬかりみち」(写真中)、急流を細線と淡い墨と朱で表現した「五月雨をあつめて早し最上川」に見入ってしまった。
詩情豊かな感性に酔い、薄暮に灯を点す通天閣を眺め美術館を後にした。
(作品は、「大阪市ホームページ」からリンクしました。)