尾崎まことの詩と写真★「ことばと光と影と」

不思議の森へあなたを訪ねて下さい。
「人生は正しいのです、どんな場合にも」(リルケ)
2005.10/22開設

特集『星』

2008年03月06日 23時32分44秒 | ライトバース集
「流れ星」


夜を
ちくり
銀の針が走った
またちくり
金の針が走った

ここがどこだか
何も知らない若者が
今夜も
そんな恋を
走っている

糸もないのに




「夜の犬」


流れ星が来ると
しっぽをふる

夜は
なんと胴の長い
犬だこと

天の川を
ふっている




「雑踏」


このほかに
現実はないはずの
プラットホーム

ざわめきと
アナウンスに
中心を見出せないで
あの日を歩いている
時間の幽霊

星雲を
急行列車が通過する



「あなただけを」


煙草を消して
テレビを消して
明かりを消して
おっと 
窓の外の
星も消して
そっと
キスして
この深い夜に
ぽっと灯した
あなただけを




「帽子」

少年時代
昼間は青い帽子を
夜は星の帽子を
被っていたよ

地球の顔して



「冬の星」



その輝きと静けさに
二筋の白い息を
地表に流しながら
僕は信じてゆく
すでに
星の数とおなじだけ
君と暮らした日々が
あったと

明日になれば
もう一つ増えるだろう
それは
名前のいらない星
消えない星だ



「夜空」


騒がしいので
表に出てみると
星の数が多すぎて
針先を集めたように
空が銀色に輝いている
そんな夢を見た

夢が虚無なのではない
虚無が夢を見たのだろう
はっきりしていることは
希望がなければ
この先
一行も書けはしないことだ



「火星も金星も」


夕暮れだ
ほんとうに
夕暮れだ
金色の
一番星が来た

傷つかずに
人は
美しいと
いうことが
できるだろうか

夕暮れだ
傷口のような
夕暮れだ

火星も
金星も
これ以上のことはない

もういいだろう



「月の舟」


月の夜には
暗い森の泉にも
宇宙の信号灯のように
月が揺れていましたから
深い天空に迷った
一人のお星様が
流れ星になって降りてきました

月の舟に
銀の星が乗ると
月はうれしくって
笑って
自分を揺りました
お星様も
はじめは一緒に笑っていたのですが
ちょっと怖くなって
言いました

 ふざけないで、
 沈んじゃうよ

月は優しく答えました

 僕たちは
 絶対沈まないんだ

水面の月は
天を指さしました
月は黙って
星を抱いていました



「知らざるもの」


星はまばたきながら知っている
花は咲きながら知っている
木は立って立って知っている
象は糞をしながら知っている
蛇はのたうちまわって知っている
貝は海の底で心底知っている
踏まれる石も砂も知っている
うつろう雲さえ知っている
人だけが知らない

嘘をつくから
誰もおしえない



「カシオペア座」


おいらは
天の川からの
流れ者ですけれど
窓辺のあなたに
少しだけ
光ってみます

一番愛している
ママにしかられたから
といって
北斗七星で
首をくくってはいけません
カシオペア座で
ブランコしてなさい

さようなら



「小熊座」

僕のなかの
毛皮を着た人は
冬の星に関する発見に
耳をピンと立て
ずきんを持ちあげ
息を白くして言います

まばたきしているのは
光ではなくてって
むしろ闇です



「木星」


母が教えてくれたように
優しい人って不思議
みんな黙っていた
だからきっと
あなたは
一番
優しい

度が過ぎると
気が狂うと
いうけれど
この世には
仕方ないことがある

私がわけもないのに
泣いていると
誰にも見えないけれど
石の階段に
永遠みたいに
木星が座るの
肩肘ついて
海を見ているの

愛のような
煮え立つ
頭を抱えてね




「真実」


ほんとうのこと
言ってみるね
人間はみんなえらそうに
自分のふりをしている

犬じゃないから
花じゃないから
お化けじゃないから
星じゃないから
そして
自分が誰だかわからないから
ついに自分が誰でもないから

腹を立て
自分のふりをするわけさ




「ロマンティスト」


臨時ニュースです

シャボン玉の日の今朝
自分の吹いたシャボン玉に乗って
世界一周しようとした
自称 最後の詩人が
流れ星と衝突し
砂漠に墜落しました
かしこい皆さんは
この男の
まねをしないでください

続報

幸い流れ星は
星の王子様の星だったので
男は奇跡的に助け出され
幸い命に別状はないようです

続・続報

王子様と友達になった男は
今夜、砂漠の全毒蛇に対して
宣戦を布告しました
もちろん
彼の武器は
シャボン玉です



「蟹女蟹男」


太陽は楕円に歪み
蟹女はぞろりぞろり
磯の大岩に這い上がる

紅色の甲羅を
カピカピてからせ
若い欲望の泡を吹き
となりの蟹を鋏で突いたり
波間に蹴落としたりしながら
寄り目の横目で待っている

母から聞いた
昼でも星を撒き散らし
撒き散らしする
好色の花火師
蟹男を

待ちわびて
とうとう震え出し
全身白煙をあげ
ぐつぐつ
オートマチックに
湯だってくる

食えと言わんばかりの
白肉の
うまそうな匂いに
海にかかる天の川が
白昼に発情の明滅だ

その八方に飛び散らんとする
ビッグバンの遠い記憶を
その姿形にとどめる蟹男よ
深海を這い上がり
蟹女に
億兆の
星をばらまけい
星をばらまけい



「笛」


宇宙の初めみたいに
星を撒くとき
僕は空洞の笛にされ
ヒューと鳴ってしまう

神の行列を見る
唯一のチャンスに
眼を瞑ってしまう































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