温泉クンの旅日記

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個性の宿

2006-07-19 | 旅エッセイ
  < 個性の宿 >

 房総に、ずっと気になっている宿があった。



 その宿のホームページでアンケート募集をしていたので、だしてみたらナント
無料招待のメールが届いた。ある年の十一月のことである。
 旅に関しては超行動的なわたしなのに、温泉がないという、ただその一点でため
らっていた。それでも無料招待に背中を押されて、期限が切れる一月についに行く
ことに決めた。

 宿については、結果から先にいうと満足できた。早い話、気に入った。目の前が
海で、岩場では釣りもできる。美人女将もいる。朝日も夕日もなぜかどちらも拝め
る珍しいロケーションの温泉地だ。料理もありきたりでなく工夫をこらしている
し、あちこちに置かれた生け花も瑞々しい。

 鴨川のほうに、ときたま行くこともあるのでその際には、この宿もまた利用しよ
うと思った。いくつか気がついた点があったので、老婆心ながらメールを宿あてに
だした。「ロハ」で、つまり無料宿泊しておきながら、辛口(宿曰く)の意見を
送信したのは、宿が気に入ったからで、長文でケチをつける趣味はわたしには毛頭
ない。がっかりした宿なら二度といかないし、ひとに勧めないという行動をとる。
そしてさっさと忘れてしまう。
 部屋においてあるアンケート用紙にも細々と記入したが、記入を終わったあとの
ことや書けなかったものをメールしたのである。
 いくつか書いたのだが、そのうちのふたつが次のような文章だ。宿の名前以外は
原文のままである。

『xx旅館では客と宿の関係は、フロントで終わるのでしょうか。
 送迎は、旅館にとって大事な原点の儀式のようなものと思っています。客をここ
ろよく迎え、客をこころよく送り出す。そのどちらにも女将の存在は欠かせない。
もし、女将が客の送迎に出られないような事情がある場合には、それに変わる立場
のひとがするべきです。  
 客が見えなくなるまで女将を含め何人かで見送り、最後に深々と一礼する。武道
でいう「残心」です。そうやって送り出されますと、また来ようかという気持ちが
たしかに生まれます。いい旅、心に残る旅をしたい。ひとは、そう思って旅に出る
わけですから、最後に丁寧な心こめて送り出されると、宿に滞在中に多少の失望
不都合があったとしても、些細ならそんなことは拭うように忘れることができま
す。あの伝説の宿、鵜の岬もそうですが多くの旅館が心がけています。客が客を
呼ぶのですから』

 ・・・朝の出立のときに、宿で見送られるのが旅なれてくると、若者言葉でいう
と「うざい」ものになる。でも、それからもずっと旅を続けていると、やっぱり
「いいな」に変わってくる。単なる儀式とか儀礼を超えて、心が伝わってくる見送
りは、嬉しいものである。正真正銘、心に残るのだ。

『これは経営的に難しいのかもわかりませんが、出立するときに部屋を出てフロン
トまで歩く間、すでにチェックアウトした客室の前に投げ出されたシーツや浴衣を
見かけます。廊下でそういう丸めたシーツやでれでれになった浴衣を見ると、なに
かしらため息がでます。全員がいなくなったフロアは別として、まだ、チェック
アウト前の客がいるフロアは廊下に投げ出さないような、なにか工夫がないもので
しょうか』

 ・・・どうか、ごゆっくりなさってください。どこの宿でも、大体こう言うか
書いてある。宿泊した部屋の同じフロアで、ドタバタ始まる清掃は気ぜわしい。

 返信メールが送られてきた。

 見送りについては、客のことを考えた結果としてしつこい見送りをうちの宿は
しない、見送りが大好きなお客もいるが、お越しの皆様全員に好まれる個性のない
宿を目指していません。シーツの件は改善します。要約すると、そんな内容であっ
た。

 お越しの皆様全員に好まれる宿と個性のない宿の関係が、ぜんぜんまったくよく
わからん。客の何人かになんか好まれなくてもええんやかまへんねん、ともとれ
る。ピチピチの令嬢(礼状)かと思ったらシワシワ老婆心メールだったので逆上し
て、ちょっとクチがすべったのかな。お越しの皆様全員に好まれたほうが、その
皆様のひとりとしては絶対にいい。個性のない宿は目指さないか・・・、うぅむ
ぅ、そう言われると取りつく島がないなあ。「ミスター老婆心」対「個性のある
宿」。ま、すべて、一期一会。この宿とのつきあいはこれからどうなるか、いまは
わからない。

 さて、見送りやらシーツやら、あれこれ考えながら宿をあとにしたわけだが、
気分治しにはレーノやつ、そう温泉しかない。温泉浸かって老婆心を洗い流し、
いつもの能天気にもどろう。
 それにしても、温泉地の宿なのに温泉でないのは不思議であった。温泉好きには
共同浴場を教えるとか、他の旅館と提携して温泉だけはいれるようにならないのだ
ろうか。あ、いけない、お客全員に好まれないでいい、なにしろ個性のある宿だも
んなあ。

 昨日と同じ山越えの道を辿り、亀山温泉に向かった。
 亀山湖のほとりにたつ「亀山温泉ホテル」。
 素晴らしい、温泉だ~。東京や横浜に多い黒湯である。含ヨウ素臭素重曹食塩泉
と長い泉質名だ。湯がぬめりをもち、絡みついてくる。見た目はありがちな黒湯だ
けど、今日は大満足である。かけ流しの豊富な湯量で、暖かな湯煙のこもった広い
浴室である。
 亀山湖にむかい扇形の湯船は二十人ぐらいはいれる。眺望はたいしたことはな
い。隣に2人ぐらいしかはいれない広さのぬる湯があった。

 料金は千円で高いなぁと思ったが、昨日からのことを考えると、すごくいい気分
転換になったのである。なにしろ無料は怖いからな・・・個性のないわたしはそう
身に沁みて思うのであった。


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