押尾被告に対する保護責任者遺棄致死罪等事件について,東京地裁は,懲役2年6月の判決を言い渡しました。この中で,保護責任者遺棄罪は認定したものの,致死罪については認定しませんでした。
押尾学被告実刑 裁判員にかかった大きな負担(読売新聞) - goo ニュース
プロの裁判官だけの裁判でも結果が分かれる事案でしょう
今回,芸能人に対する裁判員裁判ということで注目されましたが,結果的には妥当というか,なるべくしてなった判決だと思います。
この判決に対して,「甘い」とか「押尾被告のけしからん行為を評価していない」などと一部マスコミから批判を受けていますが,大前提として,裁判は「人を裁く」のではなく「事件を裁く」のです。したがって,被告人が普段からどういう言動をして,どういう性格なのかっていうことは全く度外視して当該事件について考えなければならないものなのです。押尾被告の言動が気に障ることばかりだから罪を重くしてやれっていうのは,むしろ筋違いなのです。
そういう意味では,一般人である裁判員は,実に冷静に判断したと思います。
さて,この裁判,実は争点がたくさんあるので,ここではあえて「致死罪の成立」についてだけ解説したいと思います。
今回,保護責任者遺棄致死罪が認められず,単に保護責任者遺棄罪のみが認められました。
この両者の罪の違いですが,ものすごくざっくりいうと,「助けるべき人が助けなかった」のが遺棄罪,その結果死亡したら致死罪になるのですが,ここでいう「その結果」っていうのは,「放置したことと死亡したこととの間に因果関係があること」が求められるのです。そして,その因果関係とは,「助ければ十中八九助かったであろう」という程度で十分であるという判例があります。つまり,「助ければ確実に死ななかった」までは求めていません。
一方で,「疑わしきは被告人の利益」という大原則があります。これは,罪となるべき事実の証明責任は検察官に負わせていますが,証拠が不十分であれば,被告人は無罪としなければならないっていうことになります。この規定について批判をする人がいますが,「疑わしきは有罪」っていうことにしたら,どこかの国のように,「気に入らない人を捕まえて,適当に裁判して,即刻処刑」が可能になってしまいますから,これは私たちが安心して生活するためには極めて重要な原則なのです。
でもって,今回の押尾事件の場合,被害者女性の死亡と押尾被告の救助活動をしなかったこととの間に因果関係があるかどうかっていう点が争点となりました。
検察側は,医師の証言などから「急変してすぐ救急車を呼べば十中八九助かった」という点を主張立証しました。
一方,弁護側は,別の医師の「助かる確率はかなり低かった」という医学的見地からの証言や,救急車の現実的な運行時間等から,「十中八九助かったとは言えない」っていう反論をしてきました。
今回,裁判所(裁判員)は,弁護側の医師の証言も一理あり,それが直ちに否定される理由もないこと,だとすると,検察側が主張する「十中八九助かった」という点について,立証されたとは言えないということから,致死に関する因果関係の証明不十分として,致死罪について否定をした,っていうことになります。
決して,「芸能人だから」とか「一般人の感情論」っていう事実認定ではありません。これは,プロだけの裁判官でも非常に悩む事案であったといえるからです。むしろ,この結論に至る評議では,裁判官も裁判員も相当悩み,議論をしたと思います。
ただ,プロの裁判官だけの裁判であれば,医師の証言について,どちらの証言の信ぴょう性が高いかを判断して結論を出したかもしれません。その判断いかんでは,当然,弁護側の主張が認められず,検察側の主張立証が認められたとして致死罪を認定したかもしれません。
さて,舞台は高裁に移ります。今のところ,被告人から控訴が出されていますが,おそらく検察側も控訴してくるものと思われます。
そうすると,高裁で再び全面対決となります。そして,保護責任者遺棄致死罪についても,検察側は立証の補強をしてくるでしょう。それに対して,高裁はどのような判断をするか,注目です。
ちなみに,審理不十分として地裁へ差し戻すとなると,再度裁判員裁判となります。もっとも,本件では事実認定は十分されていますので,その可能性は低いかなあ,って思います。
押尾被告の言動には,まだまだ目が離せませんね。
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今回,芸能人に対する裁判員裁判ということで注目されましたが,結果的には妥当というか,なるべくしてなった判決だと思います。
この判決に対して,「甘い」とか「押尾被告のけしからん行為を評価していない」などと一部マスコミから批判を受けていますが,大前提として,裁判は「人を裁く」のではなく「事件を裁く」のです。したがって,被告人が普段からどういう言動をして,どういう性格なのかっていうことは全く度外視して当該事件について考えなければならないものなのです。押尾被告の言動が気に障ることばかりだから罪を重くしてやれっていうのは,むしろ筋違いなのです。
そういう意味では,一般人である裁判員は,実に冷静に判断したと思います。
さて,この裁判,実は争点がたくさんあるので,ここではあえて「致死罪の成立」についてだけ解説したいと思います。
今回,保護責任者遺棄致死罪が認められず,単に保護責任者遺棄罪のみが認められました。
この両者の罪の違いですが,ものすごくざっくりいうと,「助けるべき人が助けなかった」のが遺棄罪,その結果死亡したら致死罪になるのですが,ここでいう「その結果」っていうのは,「放置したことと死亡したこととの間に因果関係があること」が求められるのです。そして,その因果関係とは,「助ければ十中八九助かったであろう」という程度で十分であるという判例があります。つまり,「助ければ確実に死ななかった」までは求めていません。
一方で,「疑わしきは被告人の利益」という大原則があります。これは,罪となるべき事実の証明責任は検察官に負わせていますが,証拠が不十分であれば,被告人は無罪としなければならないっていうことになります。この規定について批判をする人がいますが,「疑わしきは有罪」っていうことにしたら,どこかの国のように,「気に入らない人を捕まえて,適当に裁判して,即刻処刑」が可能になってしまいますから,これは私たちが安心して生活するためには極めて重要な原則なのです。
でもって,今回の押尾事件の場合,被害者女性の死亡と押尾被告の救助活動をしなかったこととの間に因果関係があるかどうかっていう点が争点となりました。
検察側は,医師の証言などから「急変してすぐ救急車を呼べば十中八九助かった」という点を主張立証しました。
一方,弁護側は,別の医師の「助かる確率はかなり低かった」という医学的見地からの証言や,救急車の現実的な運行時間等から,「十中八九助かったとは言えない」っていう反論をしてきました。
今回,裁判所(裁判員)は,弁護側の医師の証言も一理あり,それが直ちに否定される理由もないこと,だとすると,検察側が主張する「十中八九助かった」という点について,立証されたとは言えないということから,致死に関する因果関係の証明不十分として,致死罪について否定をした,っていうことになります。
決して,「芸能人だから」とか「一般人の感情論」っていう事実認定ではありません。これは,プロだけの裁判官でも非常に悩む事案であったといえるからです。むしろ,この結論に至る評議では,裁判官も裁判員も相当悩み,議論をしたと思います。
ただ,プロの裁判官だけの裁判であれば,医師の証言について,どちらの証言の信ぴょう性が高いかを判断して結論を出したかもしれません。その判断いかんでは,当然,弁護側の主張が認められず,検察側の主張立証が認められたとして致死罪を認定したかもしれません。
さて,舞台は高裁に移ります。今のところ,被告人から控訴が出されていますが,おそらく検察側も控訴してくるものと思われます。
そうすると,高裁で再び全面対決となります。そして,保護責任者遺棄致死罪についても,検察側は立証の補強をしてくるでしょう。それに対して,高裁はどのような判断をするか,注目です。
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