そろそろ10月が終わりそうだというのに、ヘチマさんはまだ蔓を伸ばしている。
どうするつもりなんだろう?
もうすぐに初霜も降りて来る。
いささか心配になって来る。
季節に逆らうことはできまい、て。
そろそろ10月が終わりそうだというのに、ヘチマさんはまだ蔓を伸ばしている。
どうするつもりなんだろう?
もうすぐに初霜も降りて来る。
いささか心配になって来る。
季節に逆らうことはできまい、て。
十方無量諸仏 百重千重囲繞す さぶろうを百重千重囲繞して、よろこび守る。十方無量の諸仏は、さぶろうをただただただただよろこび守る。
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現世利益和讃を読み取る。「さぶろう」の文字は経典には書いてないが、同等である。さぶろうが読んでいるから、さぶろうが十方無量の諸仏の相手になっている。
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「百重千重」とは? 中心がさぶろう。さぶろうのまわりを百回千回取り巻いて取り囲んでいる、ということだ。十方無量の諸仏が取り囲んでいるということだ。
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しかもその諸仏は、さぶろうを取り囲んでいられることをよろこびとしている、というのだ。さぶろうを取り囲んで守り通していることをよろこびとしている、ということだ。
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そんなことがあっていいのか? と思うが、そうして下さっている、らしい。
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さぶろうという人間は、そんなに重要人物なのか? そうは見えないが、そうらしいのだ。諸仏の目から見れば、さぶろうは価値のある人間である、らしいのだ。
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諸仏の目は霞目(かすみめ)かもしれない。よく見えていないのかもしれない。と疑問を起こすが、諸仏の目に狂いはあるまい。仏の目に間違いがないとすれば? さぶろうはとんでもない上等人間ということになる。
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嘘だあい。やっぱりそう言いたくなる。さぶろうは安っぽい男なのだ。どこからどう見ても仏が百重千重囲繞して、守護しているに値する存在ではない。
365日x77年=28105日。今日は10月28日だから、プラス(約)11ヶ月=30x11=330日。プラス受胎から出産までの十月十日。=310日。合計で28745日。
28745日をこの地球上で生き続けて来ることができた。どうだ。波をチャップチャップ乗り越えて進んできて今日になっている。この幸運、この快挙はどうだ!
文句はなかろう。堂々たるもんだ! 吉事の嬉しい感嘆符が100の100乗個繋がるほどだ。おつりだらけであります。
これだけのプラスを重ねて来たんだから、さぶろう、どうだ、もう何が起こっても揺らぐまいな?
それがしかし揺らぐんであります、さぶろうは小心者。熱をちょっと出しても青い顔をするんであります。つまらん男であります。いつまでもいつまでもご恩知らず礼儀知らずであります。
セリーグ優勝決定戦、オリックス対ヤクルト戦。勝ち負け引き分け。もつれてもつれる。双方の勢い互角。見る分には面白い。胸張って晴れがましい選手の顔、顔、顔。
選手でなくても、生きている万人が、こうでなくちゃ!
さぶろうがいなくなっても、風がそよろと吹くだろうな。そよろそよろと吹くだろうな。小春日和になった畑の土の上を。
さぶろうがそこにいなくても、そこには秋の風景が静かに穏やかに出来上がっている。だろうな。
さぶろうがいたころとちっとも変わらずに。お日様が照って。青空が広がって。小鳥が来て鳴いて。木々の葉は赤く染まって。
午前8時半。もうそろそろか。外に出てもいいか。
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畑の九条葱が高さ40cmに届こうとしている。すんすんしている。青青している。命を生きているぞの顔をしている。
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1列の列の長さは8mほど。それが2列ある。片方は白葱。片方は青葱。地下の部分を喰うのが白葱、地上の部分を喰うのが青葱。土寄せの度合いが違う。
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さぶろう、おまへも出ておいで、光の中へ出ておいで。さあ早く早く。急いて、誘って来る。
地上が明るい。日が高く昇った。明るい地上を生きている。これだけで十分、オレがすっとオレ様に格が上がる。地上の明るさと等しく、明るい顔のオレ様になる。お安い。
出る。有り難い。喰った分は出てくれる。用事を済ませて出てくれる。
もしも、出てくれないとすると腹は膨れてしまうことになるが、出てくれる。有り難い。
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有り難いことが我が身に起こる。そそそそと身近に起こる。有り難い。
ハアー、秋の夜長に針の手止めてヨー、主(ぬし)の安否を思い出す。
ハアー、ほろり涙で風呂焚く嫁御ヨー、ナンダコーラヨーット、煙いばかりじゃないらしい、ナンダコーラヨオット。
福島県民謡新相馬節を唄ってみる。長々と。
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針の手を止めて遠いところに出掛けて働いている夫の安否を気遣っている嫁女がいる。会いたい。早く帰って来てわたしを抱いて欲しい。思っているとそれだけ会いたい思いが滾って来る。
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風呂場の釜に薪をくべながら煙に巻かれて嫁女、目から涙が流れているが、どうもその涙は煙のせいばかりではないらしい。夫の父と母が風呂をすませるまでは、風の吹き荒ぶ外で釜焚きをしているしかない。
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民謡は寂しい悲しい。そしてふっくらあたたかい。
寒さが募ってきたのに、南国の花ブーゲンビリアが、夏場と変わることなく真っ赤に咲いて、我が家の玄関先で咲き誇っています。衰えを知りません。あなたのその気鋭に拍手を送りたくなります。