ショートショート童話 「春風と野原」
薬王華蔵
1
あなたを/元気に/したいなあ
元気ではないあなたを/見るのはつらいなあ
2
これはお手紙です/たった二行のお手紙です
3
差出人も書いてありません
でもたしかに宛先はわたしになっています
4
わたしはそこら中をぐるぐる見回しました
5
春風が/倒れたススキの野原を/吹いて渡っているだけでした
ショートショート童話 「春風と野原」
薬王華蔵
1
あなたを/元気に/したいなあ
元気ではないあなたを/見るのはつらいなあ
2
これはお手紙です/たった二行のお手紙です
3
差出人も書いてありません
でもたしかに宛先はわたしになっています
4
わたしはそこら中をぐるぐる見回しました
5
春風が/倒れたススキの野原を/吹いて渡っているだけでした
ショートショート童話「仲直り」
薬王華蔵
あれこれあったけどやっぱりやっぱりあなたが大好きだって、そう言ってお上げなさいよ。
わかった。じゃ、そうするよ。
そう言ったら、青鬼さんはきっと目に涙を浮かべてしまうだろうよ。青鬼さんだって毎日辛い思いをしていたはずだから。
ん。
それを見たら、きみは黙って青鬼さんに近付いて行って、手を背中に回して、抱擁をするんだよ。
ん。そうするよ。
*
それからどうなったんだろう。仲直りはできただろうか。どうなったかは聞いていない。
*
昨日、谷川にかかる吊り橋の途中で/青鬼さんに会ったら、青鬼さんが「こんにちは」を返してきたけど、「こんにちは」がとても弾んでいたんだ。
即興詩 「新しい衣替え」
薬王華蔵
つまらないとすれば/それはつまらないものであるが/つまらなくないとすれば/それはその時点で/わたしの再評価が嬉しいのだろう/新しい衣替えをして現れる
そしてそれを見たわたしは/再評価が正しかったということを知ることになるのだ/それが評価し直されたのではなく/結局/わたしが評価し直されたことに等しくなっているのだ
つまらないとした方がいいのか/つまらなくないとした方がいいのか/ひょいとした弾みで/どちらかの方についているわたしがいるけれど/いつでもチェンジができるってのが面白い
もうまもなく午後3時になります/ずっと雨でした/雨だから家の中に閉じ籠もっていました/雨でなくとも/閉じ籠もりなんですが
気分転換をしたくなりました/わたしの気分は贅沢だから/気分転換を欲しがります/でも/どっかへ行ったら/それはそれで満足します
何処がいいかなあ/思案するばかりで実行が伴いません
それでさっきから/気分がふてくされています
飴玉を嘗めさせています/これで機嫌を直してくれたらいいけどなあ
わたしの即興詩「わたしの考えた即得往生」
薬王華蔵
1
わたしはとにかく此処を去ります/早晩そうなります
2
たとえばフランスの国を去ったら/ドイツの国に入ることになります
3
去っただけで終わりにはならないのです/フシギです
4
わたしも/だから/何処かの国に入ることになります
5
此処を去ったら/隣接している何処かの国に入ることになります
6
仏教ではそこが極楽世界ということになっています/だから極楽世界は隣接しています/即刻/死んだと同時に/わたしは隣接する仏国土の極楽国に入ります
7
これが即得往生(たちまち往生をしてしまう)です/心配しないでいいのです/去ったら、即刻同時に/次の国に生まれています
8
で、今日のわたしは/その国に入ったあとのわたしを想像しています
9
わたしはこころも失っていませんから/其の国に移民したあとでも/元の世界のわたしを想起することは出来るのです
10
ふたりになったわたしとわたしが/にこにこして向かい合ってお喋りをしています/どちらもにこにこのいい顔なんです
わたしの即興詩「わたしはいつも知らんぷり」
有り難いなあと思います/雨が降るので/わたしが畑に水遣りをしなくてすんでいます/わたしは家の中で読書をしていればいいことになっています/有り難いなあと思います/しかも/雨は「おれがしてやったんだぞー」を言いません/言わないので/わたしも知らんぷりをしていられます/数日前に畑の玉葱に肥料を撒いておいたので/この雨で玉葱は肥料をご馳走にしていることでしょう/雨が上がったら見に行きます
お昼は釜揚げうどんでした。わたしの住んでいる町には麺工場がたくさんです。それぞれに味が違っています。違っているはずなんですが、どれもどれもおいしいので、麺ばかりたべることになってしまいます。
釜で茹でたうどん麺を丼に汁ごと入れて、適当なスープの小鉢に箸で掬ってつるつるつるっと食べます。鰹鰤と小葱が必需品です。そんなにたくさんは食べられません。老人はすぐにお腹が満ちます。
茹でてくれるのは奥さん。小葱を畑から摘んで来て包丁でざくざく刻むのがわたしの任務です。
わたしの書いた今日の詩 「TAKEとGIVEのシーソー」
1
人生という公園で/TAKEとGIVEがシーソーをしています
片方にはTAKEが位置して/もう片方にはGIVEが位置しています
2
TAKEはわたしが頂いたもの/頂いているものです
GIVEはわたしが与えたもの/与えているものです
3
頂いたものがあまりにもあまりにもたくさんな割には/与えたものがちっぽけ過ぎているので/シーソーの遊びになりません
4
この状況を見て/不公平だなあとわたしは思います/あまりにもあまりにも不公平だなあと思います/まったく釣り合っていません/これではわたしは大きな顔ができません
5
そんなにもそんなにも不公平でいいのかなあと思います/この状況を許してもらっているんだなあと思います/身がすくみます
6
空気も水も与えられています/空も山も与えられています/食べるものもみんな与えられています/ものを見るのに必要な明るい光も与えられています
7
指を折って考えていて驚きます/与えられたものが多いのに比べたら/わたしが与えたものが/あまりにも少ないのです/そうであるのに/わたしはそれを負担にも感じないで生きています
8
みんな無償になっています/お返しなしになっています/あとで利子を付けて返す必要もありません/請求書も届きません/有償ではないのです/よかったなあと思います
9
わたしが達し得た結論を延べます/わたしはそうしてもらえるだけの大きな価値を持ってこの世に生まれて来ています/此処に存在しているだけで偉大なんです/凄いんですわたしは/それだけの宇宙中のエネルギーがひたすらひたすらわたしを幸福にしようとしています
今日のわたしの詩「譲ろうとしないわたしはずるい」
薬王華蔵
旨く表現できないので/もどかしくしています
わたしは此処に生まれて/此処をうつくしいところだと/そう思っています
それで十分じゃないかって/そう思うんです
しかしそう思いながら/此処を去って次の役割に就こうとはしません
これはわがままです/わたしはわがままをしています/
次の順番の人に交代するべきです/次の人だってやっぱり此処に生まれて来たいんです/生まれて来た此処をうつくしいと思いたいはずです
それをわたしは拒否しています/わたしは誰かにそうしてもらったので/此処に来ているのに/それをわたしだけの/幸福にしようとしています
譲ろうとしていません/わたしはもう次へ行くべきです/次には次の役割があります/その役割に就くというのも/やはり幸福をもたらしてくることに違いがありません
もどかしいです/わたしは生まれて来たことを讃美しています/そうであるのに/次へ進もうとしていないんです/死ぬことを拒否しています/わたしはずるいです
わたしは今いる地点を眺め回します/うつくしい空があります/うつくしい山があります/次々と花が咲いて地上をうつくしくしています
うつくしい空を見て/うつくしい山を見て/讃美して/うっとりして/わたしは自分ばかりがいいようにと思っています
わたしはこの場所を/ひたすら待っている次の人に/譲る気持ちがないようです/わたしはそれをしてもらったので/此処に生まれて来ています
わたしが人にしてもらったご恩を/わたしはないがしろにしてしてしまっています
「つるむ」って言葉がありますね。一人ではなくて二人、三人、五人十人と、群れをなすことでしょうか。わいわいわいの勢いのある団体さんをよく見掛けます。
先日また牛津の津の里温泉に遊びました。売店で高菜の油炒め弁当を買いました。小さめの弁当です。老人用かもしれません。300円でした。畳100畳ほどの和室休憩室で食べました。
回りには団体さんが数組いらっしゃいます。老人女子会のようです。お菓子などを回し回ししながら、お喋りに花を咲かせておられます。みなさん楽しそうです。わたしは一人です。隅っこで小さくなっていました。
上手につるんでいらっしゃいました。みなさん気が合って誘い合って此処へ来られたのでしょう。週1回の定例会かもしれません。もしかしたら終日をここで過ごしておられるかも知れません。
入浴料は520円。町民はどうも半額のようです。冷暖房は効いているし、売店にはお菓子も弁当も置いてありますし、でっかい温水プールもあります。外には足湯の作ってあります。
わたしは「つるむ」のが苦手です。つるんだところで、長持ちできません。すぐに圏外にはみ出てしまう癖があります。要するにわたしは我が儘です。人といっしょの行動ができないのです。これはわたしの欠点です。