木の葉降り止まずいそぐないそぐなよ
加藤楸邨
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秋になると木々は落葉する。はらはらと木の葉が落ちる。大きな木の葉も小さな木の葉も落ちる。地上に落ちて降り積もる。急いでいるわけでもなかろうが、急ぐようにして木々を離れる。やがて山野の落葉樹は裸になる。裸の木々を木枯らしがいやさらに吹いて、吹き荒れる。
人間はそうはいかぬ。できるだけ急がぬようにしている。できるだけ長く地上に留まろうとする。その人間の作者からすれば、木々にも忠告を与えたくなって来るのだろう。急ぐな急ぎなよ、急がなくてもいいんだよ、と言いたくなる。
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木々は葉を落としてもそれでもそれを悲しまないでいられる。次の春になれば木々はまた芽吹く。芽吹くことを知っている。新しい命を与えれることを知って安心している。人間はそうはいかぬ。それが絶対損失に見えて仕方がないのだ。
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たった17文字しかない俳句なのに、作者はその17文字の内の9字を、「急ぐな」という憐憫の命令に充てている。