<おでいげ>においでおいで

たのしくおしゃべり。そう、おしゃべりは楽しいよ。

「ねえ、キスして!」 わたしの書く小説の最初の1ページ。

2022年08月23日 06時24分34秒 | Weblog

「ねえ、キスして!」 

流美ちゃんはすぐにそう言う。あっさり、ちょくちょく言う。近寄ってきて耳元に寄りかかって言う。でも、流美ちゃんにその気はない。言ってみただけである。彼女の誘いかけは誘いかけになっていない。ハローに等しい。意味を持たせていない。だから、こっちだって、知らんふりできる。無視している。これでいい。どうせまた来る。やがてまた人恋しくなる。猫になる。擦り寄って来る。

「ねえ、キスして!」を言う。これで調節ができるらしい。気分をハイにできる。便利と言えば便利だ。でも、僕に触れることはない。触れることはないが、化粧したばかりの頬の匂いがふっとその場に漂う。そうなんだ、それを言うのは決まって化粧をした後なんだ。それが圧倒的に多い。美人になったところを見て欲しいのだろうか。

「ねえ、キスして!」を言い終わると姿を消す。どこかふらりと出て行ってしまう。こんなところも猫だ。何処へ行くのか。聞いたこともない。でもそのうちふらりと戻って来る。互いは自由行動をしていいことになっている。二人はどちらとも拘束を嫌う。相手を拘束しない代わりにこちらも拘束してもらいたくない。この流儀はべたつかない。流美ちゃんはべたべたべとつくタイプの猫ではないらしい。

なのに、あるときは膝の上に来てちょこんと座る。そういうこともある。髪を撫でてあげる。ときには流美ちゃんの手が僕の手をおっぱいへと導いて行く。おっぱいはいつもあたたかい。猫じゃなくて人間なんだと僕は思う。次へは進まない。それで済む。それで済んでいないかも知れないが、それで済む。深入りしない。そういう愛情だって愛情の部類に入っているのだろう。

セックスが好きというその好きは人様々である。あっさりでいい人もいる。「ねえ、キスして!」だけで欲望処理ができる人だっていていい。処理能力が高ければ、どの段階だっていいのだろう。僕もその能力を、彼女から学んだのかも知れない。流美ちゃんに合わせていられる。二人は濃淡の淡を選択している。もしも僕が濃淡の濃であったら、流美ちゃんは僕とは暮らせないだろう。鍵穴と鍵が適切であれば、不平も不満も噴き出さない。

「ねえ、キスして!」今日も朝から流美ちゃんが僕の書斎に走り込んで来て、化粧をした猫になっている。僕の動物が鼻に流美ちゃんの匂いを閉じ込める。僕はパソコンで仕事をしている。在宅勤務というヤツだ。会社には一週間に一度出掛けて行く。

こんな小説の始まりを書いてみた。投稿規定は50枚以上65枚まで。締め切りは8月いっぱい。期限が迫っている。

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