宿は5階建て。建てられてまだ間もない。国民宿舎。下松市の観光事業の一策なのだろうか。ほぼ島の中央に位置している。赤い大きな橋を渡ってきた。途中の崖道から蜜柑農園の山畑が見えた。眺望の良いところに駐車スペースが幾つか設置してあった。島を訪ねてくる人たちのための魚料理レストランも一軒。見晴らしのきくところにあった。
僕は3階の特上洋室。ベッドが二つ列んでいる。広い。ゆったりしている。豪華な気分だ。無理を言って頼み込んだ。ここしか空きがなかった。部屋の窓がそのまま映画のワイドショースクリーンになっている。瀬戸内海を行く貨物船の影が旅情を醸し立てる。そこへ落日が映える。一泊朝食付き8700円。貧乏暮らしには負担が掛かる。
地下に湯殿がある。湯殿がすっぽり浮き上がった格好になっていて、新鮮な驚きを感じる。地下という言い方がオカシイ。ここは屹立した岡の上。地の下にはない。がらりと展望が開けている。崖下はまっすぐ海。怒濤が白い。外に露天風呂がある。そこへ出て来て、湯煙の中に身を沈めた。幾つもの島影の間に収まった海面が平らに温和しくして凪いでいる。