ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

柔らかくて、新鮮で

2013-09-12 17:21:12 | 本のレビュー

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面白い、すごーく面白い! 東直子さんという作家の小説である。恥ずかしながら、東直子という名前を知らなかった。こんなにユニークで、味わいのある小説を書く人が、以前からいたなんて・・・。 何よりも、読みやすい。平易で、するするーと読めてしまう。この「するするー」のおかげで、この小説も一気読みしてしまった。

「らいほうさんの場所」は不思議で、少しミステリアスな雰囲気のあるお話。もう若いとはいえない三姉弟が一緒に暮らしている。皆、独身。長女は売れっ子の占い師なのだが、家庭ではちょっと独占欲の強い姉の役割を持って任じている。 彼らが暮らすマンションの庭には、「らいほうさんの場所」と名付けられた、こんもり盛りあがった場所があり、どうやらそこには秘密が隠されているらしい。らいほうさんに埋められているのは、死体なのだろうか? だが、それは匂わされるだけで、結末まではっきり明かされることはない。

出色なのは、姉弟のマンションに突然、飛び込んできたうららという幼児の存在。「さ行」がうまく発音できないらしく、「うららでつ。三才でつ。よろしくおねがいしまつ」などというのだが、この喋り方がえも言われず、可愛い。幼児って、本当にこんな喋り方するのかな? このうららという子、幼児の癖に複雑な大人の世界を感じ取っているふしがあり(うららの母親が、占い師である姉に恨みを持っており、いやがらせを繰り返していた)、それも印象的。 何ともいえず、魅力的な幼児なのだ。

「薬屋のタバサ」も、同じように、不思議色の空気に染まった物語。招かれるようにして、入った町には、結界が張られているようで、そこから出ていくこともできなくなってしまう。ヒロインもそうして、やってきた一人。ここの人たちは、眠るように生き、また眠りにつくように死んでいくのだ。薬屋タバサが、処方する不可思議な薬も、町の人たちの運命を握っているのかもしれない・・・。

 この「するする」と、すべるような文体、癖になるなあ。他にも、東直子さんの小説を読んでみたい。

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