ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

世界一ありふれた答え

2017-05-05 12:05:04 | 本のレビュー
   
 「世界一ありふれた答え」 谷川直子 河出書房新社

 二週間ほど前に読了して、とても感動した本。この気持ちをまとめておこうと思いながら、なかなか取りかかる暇がなく、時間だけがうかうかと通り過ぎてしまいました。

この著者の谷川直子という方――実は作家、高橋源一郎夫人だった女性で、何年か前遅咲きのデビューを飾ったというのに、寡聞にしてお名前も知らなかった……。


さて、この物語、どういうストーリーかというと、市会議員の妻として熱烈の頑張ってきた中年(四十歳と書いてある)女性が、離婚後ウツ病に。その治療のため、心理臨床のクリニックに通うのですが、そこで知り合ったのは、若きピアニストのトキオ。彼は、才能あふれる音楽家だったのですが、突然演奏の時だけ右手の指が動かなくなる病――ジストニアにかかってしまったのです。絶望したトキオもまた、ウツ病にかかったという訳だが、ここで未来が閉ざされてしまった二人の間に、奇妙なふれあいが起こる、というもの。

う~ん、私の個人的好みにかなう物語だし、読んでいて素晴らしく面白い。市会議員の妻という座にしがみついて、元夫への恨みが忘れられないヒロインも滑稽といってしまえばそうなのだけど、行く手に希望を見失った状態で、右往左往する様子は身につまされるものが。 そして、対するトキオのキャラクター造形が秀抜!

ちょっぴりひねくれていて、人をコントロールすることで欲求不満を解消しようとしたりするくせに、かなりの寂しがり屋。ここで彼も言っていますが、「プロの演奏家として、一日4~5時間、ピアノを弾くのが当たり前だったし、それが人生そのものだった」――こんな音楽家が、演奏もできなくなったとしたら、その絶望は想像するにあまりあるものがあります。
トキオの家に家政婦がわりに通ったりするヒロインは、徐々に立ち直りはじめます。それは、物事の、世界の真実がわかりはじめたから。つまり、トクベツな人間など誰一人としていないということ。誰もが、完璧な自分をめざそうとするのは、その実完璧な人間などいないということ。 
この結論は、ヒロインのまゆこがトキオとピアノの連弾をする最終シーンで炸裂します。

まゆこは言います。「誰でもピアノを鳴らすことができるけれど、あなたのように鳴らすのはとても難しい。私の弾くアラベスクはあなたの弾くアラベスクとはまるで違う。その違いをあなたは生きてきたから、弾けなくなったことに我慢がならないんでしょう。  けれどあなたの価値はその違いにあるわけじゃない。違いはみんながほとんど同じだから生まれるの。
たとえば、ピアノを弾く人も弾かない人も、みんなが同じ骨を持っていることを思い出して。同じ骨を持ってみんなが生きている。あるいは死んでゆく。それだけで、十分に価値があることなの。 みんな取るに足りない存在で、私もトキオも取るに足りない存在で、でも生きているだけでそれだけで十分なの」

何という、至極当然の、そして突っ切った解答でしょう。 文章はとても平易で読みやすく、柔らかな筆致なのですが、こうした作品が書けるということ自体、著者の谷川さんは大きな葛藤をくぐりぬけてきた人なのではないかしら?

そして、トキオの到達した結論も、「オレは音楽に選ばれた人間なのだと思っていたけれど、オレなどいなくても音楽は世界に存在するんだ。いいかえたら、音楽は誰も必要としていないんだ。それが、やっとわかった」というもの。
絶望の果てに、ほのかで確かな灯りの見える、世界に新しい意味が見出せる物語。こういうのは、大好きです。 本の帯にも「今年最高の感動作」とありますが、私の今年度ベスト5には入る名作に間違いなし! 
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花をあしらって―

2017-05-05 11:55:30 | ガーデニング
   
  左側のピッチャーに挿しているのは、ノエルハーブガーデンに咲いているスズラン。 右はパンジーを中心にした小さな花束を頂いたので、それを飾ったもの。

 花って、そこにあるだけで人を気持ちよくさせるのですね。今は、ガーデンも緑鮮やかで、ノエルのそばのベンチで憩っているのがサイコーの贅沢な時間です。


          
  傍らの壁には、昨年末作成した、写本装飾の作品を飾ってみました。ガラスが写り込んで、ちょっと不鮮明にしか撮れませんでしたが。
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石斛(セッコク)日和

2017-05-05 11:38:41 | ガーデニング
   

         

   
  三十五年前に、母が初めて育ててから、今では日本庭・ガーデンのあちこちに咲いている石斛(セッコク)。
  これは、ガーデンの黒いフェンスそばに咲いているもの? それと前庭の樹にも植生しているものだろうかと思います。


  

 ごくわずかの命の花……写真が上手だったら、もっとうまく花の雰囲気を生き生きとお伝えすることができるのに。

 そして、これは花見(?)に来られたお客様が下さったパン。ご自分で焼かれたそう
 翌朝、口にしてみたら、さっぱりとした風味の食事パンでありました。 私も、以前からパンやお菓子を習ってみたいと思っているのですが、日々それなりに雑用があり、
 教室に通うというのもなかなか……であります。


  

    
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