発達障害の診断を受けている3歳5ヶ月の★くんと未診断ながら発達上の凹凸が目立つ☆くんの
レッスンの様子です。
感情表現が乏しくて、めったに笑うことがない★くん。
お友だちが親しげに近づいてきても、口をへの字に曲げて、
知らんふりするか、険しい口調でぶつぶつ文句を言います。
★くんにとってお友だちの存在は目ざわりでわずらわしいもので
しかないようでした。
そこで何とか★くんに「お友だちと仲良くできた」「こんなことあんなことをいっしょにやって面白かった」
という体験をさせてあげたいと思い、親御さんたちに1時間半ほど席をはずしていただくことにしました。
(ふたりともあっさりしすぎているほど簡単にお母さんと別れることができました)
最初のうち、「ぼくはバスが好きなんだ。ぼくは、バスが……」と言いながら、
バスの扉の開閉をくり返していた★くん。
「バスのドアが閉まらないよ」と
ぶつぶつ……。
このバスのおもちゃは、扉の閉まり具合が甘くて、ピタッと気持ちよく閉じてくれないのです。
「本当だ。閉まらない、閉まらない、閉まらないね」と言いながら、
わたしが★くんを真似て指で扉を閉じようとしていると、
★くんはこちらの手元をジィーと見つめていました。
「このバスのドアはピッタリ閉まらないのよ。だってそういうおもちゃだから。
ちゃんとドアが閉まらないバスなのよ」
と残念そうにため息をつきながら言い足すと、
ほんの一瞬、★くんの唇の先にかすかに笑いを浮かべました。
それから、バスの扉を触るのをやめて、ブロックの車体を連結させ始めました。
それを見た☆くんが親しげに近づいてきて、「これでいっしょに遊ぶ?これで遊ぶ?」と
たずねながら、★くんが連結させていた車体に手を伸ばしました。
☆くんは人と関わるのが大好きな温和な優しい子です。
ただ自分の物と他の子の遊んでいる物の区別がつかないようなところがあるのです。
またその場の状況を理解したり、相手の表情を読んだりすることが苦手です。
ですから、自分のおもちゃを取り上げられかけて、「イヤッ!」と言いながら威嚇している★くんの
様子に気づいていませんでした。
そこで☆くんにこんな声をかけました。
「☆くん。☆くんは、★くんが連結した車でいっしょに遊びたいのよね。
でも、★くんは、イヤッて言ってるよ。★くんのお顔を見てみて。イヤだな、ぼくが作った車だよ。プンプンって
怒っている顔をしているよ。」と言いました。
☆くんは、★くんの顔を見て、ニコニコしながら、「いっしょに、いっしょに車しよう」ともう一度言ってから、
少し気まずそうにもじもじして、宙に向かって、「お腹すいた、お菓子食べたいよ。お腹すいたよ」
と心細そうな声をあげました。
☆くんはお母さんと別れる前から「お腹すいた、お菓子食べたいよ」と繰り返していたので、
☆くんのお母さんからビスケットを数枚預かっていました。そして★くんのお母さんには、
ビスケットを食べても大丈夫か確認を取っていました。
そこで、「ビスケットを持ってピクニックに行く子はいますか?」
と声をかけて、
「ウェットティッシュで手を拭いて、包む布にティッシュを敷いて、その中にビスケットをくるむ」という一連の作業を
するようにふたりをうながしました。☆くんは自分から進んで、自分の分と★くんの分のビスケットを
ティッシュの上に置いて、上機嫌です。
くるんだお菓子を手に、「さあ、ピクニックに行きましょう」と教室内をぐるっと回って、
椅子をお山だということにして上りました。
★くんはしぶしぶ参加していましたが、ちゃんと山に登って降りて、野原に着いたらお菓子をほうばりました。
☆くんは、ニコニコニコニコ、こんなに楽しいことはない、という様子ですが、★くんは
終始、仏頂面です。
でもゆっくりながら☆くんの真似をする姿から、嫌なのに参加しているわけではなさそうでした。
わたしが片手を挙げて、「クイズですよ。クイズ。今日、お菓子を持ってきた子だれでしょう?」
とたずねると、☆くんは飛び上がらんばかりの喜びようで、手を挙げて、「☆くん、☆くんだよ」と言いました。
次に、「もうひとつクイズ。ペットボトルのお茶を持ってきたのは誰でしょう?」とたずねると、
また☆くんが手を挙げて、「★くん、★くんだよ」と答えました。
★くんも小さな声で、「★くん」と答えていました。
今度は、「それなら、バスが好きな子誰でしょう?」とたずねてみると、ふいに★くんの顔にパッと笑顔が浮かんで、
「★くん!」という答えが返ってきました。
次回に続きます。