過去記事です。
年長さんになった広汎性発達障がいの◆くん。2歳の頃は自閉的なしぐさがたくさん見られじっとしていなかったそうで、
虹色教室に通いはじめた3歳当初は人と目を合わせたり、交流したりすることに
非常に困難を抱えていました。
現在は、語彙が豊富でごっこ遊びや工作が大好きな子に成長してきています。
ずいぶんしっかりしてきているとはいえ、
まだ机に座って長時間作業をするのは難しいですし、
全体への指示も通りにくいですから、◆くんのお母さんは来年の就学を非常に気にかけておられます。
◆くんはエレベーターや工場のベルトコンベアーなどの機械が大好きです。
教室で大きなサイズのマジックハンドを見つけて大喜びしていたので、
「天井から吊らしてUF0キャッチャーみたいにウィーンと動くようにしてあげようか?」と
たずねると、
「そうだ!そうそう、ひもをね、こっちからあっちにつけてね、それからぶらさげるといいんだ。
ひもだよ。ひもがいる!」と跳びはねて喜びながら答えました。
写真のように椅子に商品を並べてスーパーマーケットのようにセッティングしてから
マジックハンドを吊らして可動式の機械のようなものを作りました。
ひもを操作して、取りたいもののところに移動させた後は、
写真の通り手動でつかんでおります~。
◆くんとごっこ遊び。
◆くんの好きなアイテムは、「トイレ」「階段」「警察」「牢屋」「カミナリ」です。
◆くんは自閉っ子特有のこだわりがあるので、人形遊びをしていても、
まるで脚本のある劇を繰り返し演じているようにワンパターンのストーリーになりがちです。
今回も、ドールハウスの二階にお気に入りのトイレを設置して、
わたしにねずみの人形を渡すと
「奈緒美先生、はやくトイレに来てよ~」と、言います。
人形がひたすらトイレにかけこむというストーリーで遊ぶつもりです。
そこで、「しめしめ、誰もいないな。泥棒に入っちゃうぞ。そうだ!トイレを盗んでいこう」
と人形に言わせて、トイレを盗んで、おもちゃの陰に隠しました。
少し前の◆くんなら、わたしが自分の考えている通りのストーリーを演じないと、
「だめだめ!」とかんしゃくを起こして、おもちゃをめちゃくちゃにしてしまったり、
わたしのしていることを無視したりしていたはずです。
でも最近はずいぶん柔軟になって、新しい展開にユーモアや知恵で応えることができるように
なってきています。
わたしが強盗の人形を使ってトイレのおもちゃを隠してしまうと、◆くんはパトカーで
強盗の人形をつかまえにきて、牢屋に放り込みました。
それからプラズマボールという放電するおもちゃを
牢屋の上で光らせて、「カミナリがなってるよ~」と脅かしていました。
先にも書きましたが、◆くんは興味の範囲が狭くて、ひとつのものにこだわるため
遊び方がワンパターンになりがちです。
でも、それまでに一度でも体験を共有したことで、
興味を持てたり、心地いいと感じたものは、
こちらが覚えていて遊びに取り入れるようにすると、
新しい展開に遊びを広げていくきっかけとなりました。
たとえば、◆くんは教室に着くなり「郵便屋さんが、お手紙を集めていたよ!」と報告してくれましたし、
前回のレッスンでは郵便セットが入っている箱を開けて楽しんでいましたから、
「ドールハウスで遊ぶ時も、手紙が配達されたり、手紙を出しに行ったりするストーリーを入れる」
といったことをするのです。
広汎性発達障がいのある子は、
いくら別の場面で「郵便」を話題にし、別のセットで郵便ごっこをして遊んだことがあったとしても、
ドールハウスのなかのお人形の世界で手紙をやりとりさせるようなアイデアは
思いつきにくいです。
想像する力に弱さがあるからです。
でも、いっしょに遊ぶ大人が、そうして本人が他の場面で喜んでいたものを、
別の場面でも再体験できるようにフォローしてあげると、
楽しんだり考えたりする世界が広がっていきます。
また、「泥棒が何かを盗んでいったから、それをパトカーに乗った警官が捕まえにきて、
牢屋に放り込んだ」のような単純なストーリーの展開でも、
世の中の仕組みについてそこそこ興味を持っていなくては難しいのです。
ですから、簡単すぎるほどの内容でいいので、次の真新しい展開を
子どもが考えなくてはならないような言葉を人形に言わせるようにします。
たとえば、牢屋の中の泥棒に
「火事だ~警察が火事だよ、はやく消防車きて!」と言わせたら
どんな反応が返ってくるでしょう?
「ねぇねぇ、テレビが見たいよ。牢屋のなかにテレビを持ってきてよ。7時になったら、ペンギンのアニメ、
やってるんだよ」と言わせたらどうなるでしょう?
人形のどれかが、「お腹が痛い痛い。助けてよ」と言ったら?
おばけがやってきて、暗いくらい夜の街を散歩しようよと誘いに来たら
どんな反応が返ってくるでしょう?
「いらっしゃい、いらっしゃい、きゅうりが安いよ。3本百円だよ。1本おまけしておくから、
買ってよ。」と警察署に野菜を売りに来る人が来たら、どんな反応を返すでしょう?
広汎性発達障がいのある子にとって、そうした働きかけに何らかのフィードバックを返すか、
とりあえず新しく展開するストーリーを楽しむことができるというだけでも
新しいステップへ踏み出す体験になります。
あくまでも本人が自分で主導権を握って、自分で遊びを展開していくことが主となりますが
遊びがワンパターンに陥って、本人のしたい展開が一段落着いた時には、
少しだけ新しい要素を加えて、想像したり考えたりするパターンを増やしてあげることも
大事だと思っています。