前回の記事で次のようなルーくんの姿について書きました。
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一度、声をかけた時点で、ルーくんは聞こえていないようにぼんやりと夢心地でいる
ことが多いので、
お母さんは、「ルーくん、ルーくん、~するのよ」
と優しく何度かうながしていました。
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ぼんやりしていて聞こえていないかに見えるルーくんに
何度か声をかけるお母さん。
言葉がきちんと伝わってないかのように、フラフラと動き出すルーくん。
そうしたお母さんとルーくんのやりとりの後で、
ルーくんと遊び始めたわたしは、
ある疑問にぶつかりました。
↑ねずみのお人形に階段を上らせるルーくん。
たいていの場合、わたしは、子どもがわたしに求めている言葉の量や内容がわかるまで
極力、自分の言葉を控えています。
ステレオの音を最も小さな音にダイアルを合わせてから調整していくようなものです。
ですから、ルーくんに遊びの手本を見せる時も、
同じ言葉を二度言うことはまずないし、
目で見てわかる動作に添える程度に、わかりやすい短い言葉で話します。
わたしは、カエルのゴム人形をドールハウスのお風呂に入れて見せました。
「バチャ、バチャ。お風呂よ」と言って、
カエルを風呂のなかで動かして見せてから、
「ルーくん、やってみて」とは言わず、そっとお風呂やカエルをそこに
置いて、自然に次のドールハウスの家具に手を伸ばしていると、
ルーくんは、カエルを手にして、何か探している様子でキョロキョロしはじめました。
お風呂を探しているんだな、とピンときたお母さんが、
「ルーくん、ここ、ここ。あっ、さっき立てたからわからなかったのね}
(わたしが寝かして置いたお風呂をルーくんがいつの間にか立てていて、見え方が変わったので
お風呂だとわからなかったようなのです)
とルーくんの足元のお風呂を指さすと、
ルーくんはカエルをお風呂に入れる真似をして遊びだしました。
わたしの心にひとつの
疑問が生まれました。
疑問というのは、お母さんに何度も言葉でうながされている時には、
ルーくんは明らかに自閉症の子特有の自分の世界に浸っていて、
言われていることが耳に入っていないかのように常同運動を繰り返していたのに、
こちらの言葉や動きを減らした状態で、
一度しか言わなかったことに関しては、ちょっと時間が経った後でも
再現できていたということです。
それはなぜなのか、何か意味があるのか、
不思議に思ったのです。
そこで、その後は、より注意して、言葉は短く一度だけ
目で見てわかりやすい動作に添えるようにしました。
そうして、「トイレ、トイレ、おしっこするよ。シッシッ」と言って、
ねずみの人形におしっこさせる真似や、
階段をトコトコ上る真似をすると、
わたしの手をつかんで、クレーンで動かすように
人形を扱わせようとした後で、自分でも
人形におしっこをさせたり、階段を上らせたりして遊びました。
そうした様子を見て、教室に着いたルーくんが
言われてずいぶん時間が経ってから、
「な……んせい、こ……ちは」つぶやいていたことを思い出しました。
ルーくんは周囲が思っているより、理解力が高くて、指示が通りやすい子なのかも
しれない、と感じました。