虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

ゆっくり成長していく心 (発達に凹凸がある子)  

2015-10-10 07:19:35 | 初めてお越しの方

この記事を探している方がいらっしゃったので、再度アップします

発達に凹凸がある年長のAくん。

教室に着くなり午前のレッスンの子たちが作って帰った駅(↓の写真)を見て、

「壊してもいい?」とたずねてきました。

 

 

「それはね、前に来た子が一生懸命作ったものだから、置いておいてって

たのまれているの。だから壊さないで。もしAくんもブロックで何か作りたいなら、

新しいブロックをもっと出してあげる」と答えても、

Aくんは「でも、ぼく壊したいよ」と言いながら、作品に足を引っかけていました。

 

Aくんは発達の凹凸のある子の特性で

相手の気持ちがわかりにくいところはありますが、

意地悪な子でも攻撃的な子でもやんちゃな子でもありません。

気が優しくて純粋な心根の持ち主です。

 

少し前に、気持ちの行き違いから、お友だちの作っていた工作物をAくんが壊して

しまう事件があって以来、自分が悪かったことを認めるのを拒み続けていて、

「お友だちのものを壊す」という行為に妙なこだわりを持っているのです。

それでしばらくの間、ひとりでレッスンを受けることになっています。

罰でそうしているのではなく、少しの間、お友だちから離れて、

じっくり自分の内面を表現する活動をしたり、

信頼関係を築きながら、わたしと1対1で会話をしたりする時間がAくんには必要だと

感じているのです。

Aくんは学習に対する不安があって、遊びの最中も、「今日は算数をするの?」

「算数したくない」「算数しないよ。絶対しない」と数分おきに言い続ける癖があるので、

そうした学習に対しての不安感を和らげることも、ひとりでレッスンする期間の課題にしています。

 

少し前にAくんがお友だちの作品を壊してしまった事件のあらましは、こうです。

その日、いっしょにレッスンを受けていたBくんは、凝ったビー玉コースターを

作っていました。

ゴールをくぐると、輪ゴムでこしらえた罠のようなしかけがビー玉を捉えるように

なっています。

それが思うように作動しないので、Bくんは何度も熱心に試行錯誤を繰り返していました。

 

そんなBくんの作品に興味しんしんのAくんは、

「こうしたらいいよ」「ああしたらいいよ」と自分の作品のように

しかけを動かして調整しようとしました。

「やめてよ。ぼくが作ったんだから」と言うBくんの言葉も耳に入らないようで、

「こうしたらいいんだよ」と自分のやり方を押し通そうとしたあげく、

わざとではないのですが、よろけてコースターのレールをひっくり返してしまいました。

Bくんはちょっとしたことで動じない子なので、

「やめて、触らないで」と言うと、Aくんのことは頓着せずに壊れた個所を修復しだしました。

 

どう見てもAくん側の部が悪いのですが、自分がBくんのものを壊してしまったという

状況にパニックを起こしてしまったAくんは、

「こうしたらいいんだよ。それなのに嫌っていうんだもん!Bくんが悪い。

Bくんが悪いよ!」とBくんを非難しはじめました。

「Aくん。Bくんが作っているものは、Bくんがこうしたいなぁって思うように

作っていいのよ。Aくんは、Aくんが作っているものを、こうしようかな、

ああしようかなって工夫すればいいでしょ。

わざとじゃなくても、Bくんのものを壊してしまったら、ごめんなさいって謝らなく

ちゃだめよ」と注意するわたしの言葉に耳をふさいで大騒ぎしていました。

 

Aくんにとって、自分が「こういうふうにしたらいい」と思うのに

他の子は自分とは異なる考えを持っているいうことを推し量るのが難しい様子。

Bくんが作っている作品は、Bくんがどうするか決める権利を持っているということも

わかりにくいようです。

 

ちょうど今、Aくんの心はそれを少しずつ受け入れ理解していく過渡期にあるようで、

本来、快活で温和であまり他の子と揉めないAくんが、

たびたびそうした問題を起こしては、もんもんと葛藤していました。

 

そんな出来事の後、Aくんは何度かひとりでレッスンを受けることになりました。

 

Aくんは、ひとつでも不安なことがあると、ひたすらそれを言い続けるところがあります。

Aくんは口達者で利発な子ですが、数の理解については極端な苦手があるようで、

物を「1,2,3……」と数えていくこともままなりません。Aくんのお母さんは

「算数のLDではないか」と気を揉んでいるのですが、

実際には、嫌がってきちんと答えないからできないようにみえるのか、

できないから嫌がっているのか、はっきりしません。

教室では、まず算数の世界に親しみを抱くようになることを課題としています。

 

ひとりでレッスンしている間、Aくんは、

「今日は、算数の勉強はあるの?」「算数は嫌だよ」「ぼくは算数は嫌いなんだよ」

「算数の勉強はなしにして」と口癖のように繰り返していました。

でも実際、算数の学習がはじまると、ニコニコしながら楽しそうに学んでいて、

勉強が終わるのを惜しむ姿がありました。

Aくんは全てのこびとの生態を空で言えるほど『こびとづかん』が好きなので、

算数の学習にこびとのフィギアを登場させると、大喜びしていました。

その次のレッスンからは、

「今日は、算数の勉強はあるの?」「算数は嫌だよ」「ぼくは算数は嫌いなんだよ」

という訴えの後に、「今日はこびとづかんで算数する?こびとづかんせ算数しようよ」

と付け加えるようになりました。

そうするうちに、「算数はあるの?算数は嫌だ」という訴えはなくなって、

「こびとづかんで算数するの?」とだけたずね、

「算数で何をするかは、先生が決めることよ。今日はこびとづかんじゃないもので

算数の勉強をするよ。ワークもするよ」と言った答えにも納得し、

きちんと学ぶことができるようになってきました。

 

話をAくんがお友だちのブロック作品を、

「でも、ぼく壊したいよ」と言いながら、足を引っかけていたことに戻しますね。

足を引っかけていた……とはいえ、Aくんは乱暴な子ではないので、

足を引っかける真似だけして、自分の内面のもやもやと戦っている様子でした。

「Aくん、壊してはだめ。Aくんも駅を作りたいんなら、こっちでいっしょに作ろう。

ちゃんと大きな板もあるよ。ブロックもたくさんある」と言うと、

「大きい板が2つある?ちゃんとふたつだよ」とだけ言って、

「あるよ。ふたつある」と答えると、すなおにこちらに従いました。

「なおみ先生、ぼくは高いところを走る線路がいいんだよ。地面じゃ嫌なんだ。

高いところを走る長い線路を出してよ」と言うので、

Aくんのお気に入りの長いエッジで作った線路を出すと、落ち着いて作品作りに

取り組んでいました。

途中で、山の作り方を習って、山の中に山に住むこびとを隠しました。

 

牛乳パックを使ってふんすいも作りました。

 

 

 

川の上に鉄橋をかけて、こびとを配置して大満足のAくん。

 

悪いこびとのアラシクロバネがどんなに悪いのかひとしきり話した後で、

これまでBくんの作品を壊してしまった事件から、

「Bくんが悪い」の一点張りだったAくんが、ずっと言いたかったことを告白する

ように「Bくんは悪くないかもしれない」とつぶやきました。

実は当のBくんはすっかりそのことを忘れてしまって、

先日わたしが、「この間、Aくんが作品を壊しちゃったのごめんね」と謝ると、

何だっけ?という表情でキョトンとしていたのですが、

Aくんの方がずっとそのことで苦しみ続けていたようです。

「Bくんは悪くない」と言ってから、肩の荷が下りたように

すっきりした様子で、笑顔で帰っていきました。

 

 


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