20代の子を持つ親(1040名)を対象に実施された
「難関突破経験と子育ての実態」に関する調査によると、
いわゆる難関突破した経験のある子の親とそうでない親の間に
子育てスタイルに大きな違いがあることがわかったそうです。
その違いとは、難関突破した経験のある子の親は、そうでない親に比べ、
遊びを重視する傾向があることです。
就学前の遊ばせ方の特徴として、
子どもの自主性、思いや意欲を大切にして遊びの主導権を子どもに与えています。
また、親もいっしょに遊んだり絵本の読み聞かせなどで、
ていねいに関わっていたお家が多いようです。
こうした調査をしているプロジェクトのメンバーである
お茶の水大学名誉教授・内田伸子先生は、
<今回の調査から、大学受験や資格試験などの難関を突破する力や夢を実現する力と、
就学前の遊ばせ方には相関関係があることが示唆されました。
子どもは、五感を使うことで脳が発達するため、
ちゃんと遊んでいないような子どもは“9歳の壁”に突き当たりやすいのです。>
とおっしゃっています。
9歳の壁とは、学習内容が具体的なものから抽象的なものへと変わる9歳の時期に、
勉強がわからなくなる子が増えることから呼ばれる言葉です。
調査結果を長年にわたり研究している内田先生によると、
難関突破経験者の親の3人に2人が、子ども自身が考える余地を与えるような
援助的なサポートをする共有型。
逆に難関突破未経験者の半分以上が、大人目線で介入し子どもに指示を与えてしまう
強制型の子育てスタイルなのだそうです。
このことから、「遊びは量よりも質が大事で、特に親との関わり方は大切」
とのことです。
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話が少し飛ぶのですが、普段のブログで遊びの大切さはさんざん書いているので、
今回は、抽象概念の理解力についての話を……。
ユースホステルでのレッスンでこんなことがありました。
朝食時に5歳の自閉症のAくんが、「なおみ先生、なおみ先生」と繰り返しながら、
わたしのそばにやってきました。もう食事はすませた様子。
わたしがお尻をずらして席を半分あけて、
「Aくん、ここに座る?椅子の半分をあけたよ。ここに座る?」とたずねると、
わたしの隣に座っていた他の子のお母さんも反対方向に身体をずらして、
「Aくん、こっちにも半分、席があるよ。半分座る?」と、
茶目っ気たっぷりにたずねました。
わたしが、Aくんの目の前に半分ずつできた椅子の隙間を順に指さして、
「半分と半分、あっ、ひとつになっちゃった!」と告げると、
Aくんの表情が好奇心と喜びでパッと輝きました。
そこで、Aくんをその半分席に座らせて、朝食のソーセージを半分に切り分けて、
それぞれをフォークにさしてみせました。
「半分と半分……あっ、ひとつになっちゃった!」と言いながら、
切り分けたソーセージを元の一本に戻すと、Aくんはゲラゲラ笑いながら、
「半分、半分」と繰り返しました。
Aくんの心に、「半分」という言葉と概念が強く響いているようだったので、
皿にあったハッシュポテトでも「半分と半分、あっ、ひとつになっちゃった!」を再現。
それから、塩の小瓶を手にして、「半分だねぇ」と告げました。
白い塩の粒が瓶の半分ほどを占めているのを目にしたAくんは、
そこにできた空白部分と白い部分と半分という言葉のつながりに気づいたのか、
深く感動したようでした。
塩の小瓶を持って、「半分、半分」と言いながら、
他の子や親に見せてまわっていました。
Aくんについて前日の勉強会で、Aくんのお母さんからこんな話を伺っていました。
「とにかく同じことを何度も何度も言い続けます。
絶対、違うに決まっているでしょってことでも、ちがうよ、こうだよ、と説明しても、
少しすると、また同じことばかり言うので、返事をするのもうんざりしてしまいます。
他所の家の前に自転車が置いてあると、Aが「忘れているの?」と聞くので、
「忘れているんじゃなくて、置いているんだよ。あそこのお家の人の自転車だよ」と
説明するのに、
それからもその家の前を通る度に、毎回、「自転車、忘れているの?」と聞くんです。
それとか、道に鳥の羽根が落ちているのを見て、
「鳥が落としていったのね」と言うと、「取りに来る?」とたずねるので、
「鳥は落としていった羽根を、人間の落し物みたいに取りに戻ったりしないよ」
と説明しても、何度も何度も「取りに来る?」と聞くので、もう、どう答えたら
いいのかわからなくてイライラして、きつい言い方で返してしまうんです」とのこと。
「あきらかに間違っていることを何度も何度もたずねられる場合、
どう答えたらいいんでしょう?」という質問もいただきました。
「わたしは毎回毎回、初めて聞いたみたいに対応しています。
自閉の子の望む答えは決まっていることが多いですよね。
自分の言う通りに答えてもらいたがったら、相手の要望にそのまんまに答えつつ、
毎回、少しだけ返事のバリエーションに変化を加えて、
こちらの伝えたいことを目でわかる形で示すようにしています。
すると、うんざりするくらい同じことばかり聞いていたかと思うと、
ずいぶん経ってからですが、あれっと驚くほど、
コミュニュケーション能力や語彙の理解力のステージが一段上がったのを
感じる瞬間が来るんですよ」と返事をしたところ、
いっしょに勉強会に参加していた支援級の補助のお仕事をしておられる方が、
相槌を打ちながら、こんなことをおっしゃいました。
「その通りですよ。わたしも、何度も何度も同じことを聞いてくるのに
本人の望むように答えながら、少しだけ新しいことを加えて返事を工夫するように
しているんですが、半年、同じことを言い続ける時期もありますが、
そうやって対応していると、ある時、劇的な変化の瞬間を迎えるんですよ。
本当に!」
その晩は、他の年齢の自閉っ子のお母さんとも、
ただのこだわりだと一蹴したくなる質問にも、毎回ていねいに答えることと、
そうした同じ質問だからこそ、こちらも知恵を絞って、
プラスαに創意工夫を加えてみることの大切さについて、話が盛り上がりました。
(詳しくは別の機会に書きますが、この回のユースには、次に食べたいものと
その値段の話題ばかり繰り返す自閉っ子の小2の男の子が参加していたのですが、
いつもいつも繰り返す食べ物と値段の話題にその子の望む返事をしつつ、
消費税の計算や場合の数の考え方など算数の世界の新しい話題を少し加えて応えて
いると、その都度、新しい算数の問題に思いをめぐらすことに夢中になっていました)