虹色教室通信

遊びや工作を通して 子どもを伸ばす方法を紹介します。

高機能自閉症の子の高学年での成長 2 (思春期へ)

2011-09-13 06:38:36 | 自閉症スペクトラム・学習が気がかりな子

高機能自閉症の子の高学年での成長

の記事の続きです。

この頃、☆くんは、家族や周囲との関わりの中で被害的な捉え方をしたり、

自虐的な言葉を吐いたり、

イライラしたりすることが増えてきたそうです。普段は大の仲良しの妹さんにも、

けんかになると、高圧的な接し方をするようになってきたそうです。

 

レッスン中、席を外してくださっている親御さんに、

『思春期のアスペルガー症候群』(佐々木正美 講談社)の本を

お貸ししていると、さっそく読んでくださって、

「最近の言動にぴったり当てはまることが多く、参考になりました。さっそく

本屋で探してみます」とおっしゃっていただきました。

 

高学年になった☆くんは知能面でも、社会性の面でも目覚ましい成長を遂げているだけに、

みんなと同じようにできない自分を意識して悩んだり、

過去に自分がしたことを恥じたり、

「かまってほしい、甘えたい」という家族への要求と、「そろそろしっかりしなくては。もうすぐ中学生」という自覚の間で、

葛藤を抱えて

イライラすることが多くなっているのです。

 

☆くんは、夕食後に虹色教室に来ています。

1年ほど前までは、レッスンは始まっても、食べた食事の内容やこちらに来るまでにある牛丼店やカレー屋の話、

休憩時間にしたいことや好きな歴史上の有名人の話などを

唐突に話しだすことがしょっちゅうありました。

そのたびに、「今、何している最中だったかな?」と問い、「あっ、そうだ!このページの問題を全部するんだった!」と

本当に忘れていた様子で、オーバーリアクションで返事が返ってきて、

その後しばらく勉強に集中し、少しすると再び、唐突に好きなおしゃべりをしはじめる……ということを

繰り返していました。

それが、最近では、勉強中に無駄話をすることは皆無に近くなりました。

一番、驚いているのは、相当難しい問題にぶつかって、以前なら、「わかりません~!わからないわからない!」と

大騒ぎして、パニックに陥りそうなときも、

落ち着き払った声で、「先生、この2番がよくわからないんです」と静かに告げ、「よく読んでもう一度考えてみてね」と言うと、

これは難しすぎるからヒントをあげなくては……と思いながら様子を見ている最中にも、

「あっ、そうか。こうすればいいんだ」と自分なりに解決法を見つけだして、

解いてしまうのです。

特に驚いたのは、数検問題の5級(小5~中1レベル)の問題で、(現在の級ではなく、過去の級分けのままの問題集で

学んでいます)の次のようなふたつの問題を自力で解いたことです。

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(国土面積と森林面積、人口の表を見ながら解く問題です。)

①イギリスの森林面積は国土面積の約何パーセントですか。小数第二位を四捨五入して答えなさい。

②日本とペルーは、国土面積と森林面積の割合がほとんど同じです。ペルーの森林面積はおよそ何万キロ平方メートルですか。千の位を四捨五入して求めなさい。

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(各国の芸術点の表を見ながら解く問題です)

フィギアスケートの得点の決め方は、最高得点と最低得点を除いた得点の平均で出します。

フィギアスケートの世界選手権大会で、日本のある選手の各国審判による芸術点は下の表のようでした。

この選手の得点は何点ですか。四捨五入して、小数第一位まで求めなさい。

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↑の問題はどちらも、何を問われているのか全体像を理解し、すべきことを段取りし、

「最高得点と最低得点を除いた……」なんてひとことにも

見落とさないよう注意して、しっかり計算して解いていかなければならない問題です。

☆くんは同様の問題をこれまで解いたことはありませんから、

類推する力を使って、初めての見るパターンを自分の力で打破しなくてはなりません。

 

それなのに、「あっそうか!」とわかるようになってきたことに、

こちらの方が驚いているのです。

☆くんと言えば、面積を教えるときに、「たてと横」がどれにあたるのか指をさしただけで、

「わからないわからない~!」と大騒ぎしていた子ですから。

推理力がたくさん必要な問題を、どんな筋道で考えていってるのだろう?」と

まるで狐にでもつままれたような心地で、☆くんの問題を解く様子を眺めているのです。

☆くん、学校でも勉強の面では心配はないようです。

 

今回のレッスンでは☆くんのお母さんから面白い報告がありました。

☆くんは作文が大の苦手だったのですが、手塚治虫の『火の鳥』というマンガにはまって

何度も読み返すうちに、文章を書くことへの抵抗がなくなってきたそうです。

何でも原稿用紙3,4枚をすらすら埋めてしまうようになったのだとか……。

どこか上から目線の文章で、「あんたは教授か?」と突っ込みを入れたくなる部分も多々あるそうですが、

なかなかおもしろくて、よく文章を練って書けているそうです。

 

思春期に突入しようとしている☆くんは、周囲との関係に悩みやぶつかり合いも増えてきているようですが、

同時に衝動性を抑えて責任を果たそうとする姿勢や、知的な好奇心の広がりや、これまで蓄積してきたこと

が成果として目で見えるようになってきている面があるんだな、と感じました。

☆くんのお母さんは、いつも☆くんの気持ちをしっかり受け止めて、愛情をいっぱい注ぎこむ一方で、

☆くんの可能性をあきらめず、無理をさせたり結果を求めることはせず、

自分に課せられている責任や義務を根気よく教えてきました。

そうしたお母さんや家族の愛情に支えられて、☆くんは自分の荒れる気持ちにのみ込まれそうになるときも、

何とかそれを鎮めて、素直に反省して、前向きに辛いことを乗り越えていこうとします。

思春期にどのような大変さが待っているのか、まだわからないけれど、

☆くんが、失敗したら反省しながら、ゆっくり前に進んでいくならば、

☆くんに関わる全ての人(私もです)が、☆くんとともに成長していくことができるのだろうと

明るい気持ちで思っています。

 


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1 コメント

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Unknown (ろっきー)
2011-09-13 21:08:00
マンガから作文に発展できるのはいいですね♪
いいこと聞きました。
やっぱり「火の鳥」くらいの崇高なマンガでないとダメかな(笑)
子供と一緒に周囲も成長していくというその意識が大切ですよね。
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