アリスとテレスのまぼろし工場

2023-10-22 18:07:37 | 映画
本日最後の投稿。

本当は雪組100周年のチケットが取れたら東京泊まりにしようと思ってましたが、取れるかもしれない前提で新国立のチケットを取ったのに結局希望叶わずだったので、さっさと夜行バスで帰ってきた次第であります。

財布を失くしたことも知らず、観劇前の時間つぶしに悠々と有楽町の映画館で観ていたのがこの作品でした。

鑑賞後、さあ、初台に行こうと鞄から財布を取ろうとしたら財布がないことに気付いたわけであります…。


では、ここから本題。

ずっと前に予告を観たときに、「お前もオスか!?」(?)っていう台詞が私のハートを鷲掴みにしたので興味津津ではありましたが、結局関西では見る機会を失い、

たまたま新国立劇場に行くまでに時間があったので、時間つぶしにここぞとばかりに観たら、結構良かった。

ぶっちゃけ、感想が書けそうになかったらそのままスルーするつもりでいたんだけどね(汗)

ぶっちゃけ、「すずめの戸締まり」の二番煎じ感はあったが、メッセージ性は明らかにこちらの方が明瞭だったので、ウルウルしまくった。

まだたくさん席が空いている中で、わざわざ私の隣の席のチケットを買わなくてもいいのに、ちなみに私の方が前日にネット購入していた、私の隣に座っていたおじさんは、泣いて拍手してたよ。私は頷きオッサンでしたが(笑)


観終えた直後に感じたことは、極端な言い方だけど、世界の終わりの世紀末を描いた作品だと思った。

ここで描かれているのは、簡単に言うと過去と現実。決して過去にタイムスリップしているわけじゃなく、どちらも未来へと時を刻んでいる世界。

だが、過去の世界は、単純に過去ではなく、あの世の世界ともとれるし、時間が一分一秒進むごとに失われていくように、失った過去の一瞬を剥ぎ取った時間空間ともとれる。

パラレルワールドとかメタバースとは違う失われた時間。

私的に言うと、一秒は一瞬で過ぎ去るが、時間空間は永遠に止まったまま。カチコチに固まった石のように身動きすることなく時間が止まっているんじゃなくて、その時間空間にも世界が広がっている。ちょうどExcelの1マスのセルを拡張してWordのように使用し何某の世界を描いているのと同じ。

その時間空間には、セルと同じくベルリンやパレスチナ自治政府区のように現実社会とのを隔てる壁(見えないバリア)があり、痛みも雪の冷たさも寒さも暑さも感じない世界。そこに住む住民は幽霊的な存在。だが私は幽霊だとは思わない。

その壁を乗り越えることは現実社会で生きることを意味するのではなく、神隠しのように消えてなくなることを意味する…。 

そのExcelの1マスのセル世界に1人の女の子が迷い込んでいた。ここからはあえてセル世界とかきますね。

セル世界にも教祖的存在の人間がいて、工場にその女の子を隠していた。その女の子を神の子だと崇め(?)、この子を失うことはこのセル世界を崩壊させると信じ込み、誰の目にも触れないように自分の娘に世話役をさせていた。

誰かの心の崩壊が、この現実との見えないバリアに亀裂が入りセル世界が崩壊することが分かってくる。

当たり前だが、このセル世界の住民は、この社会、この今の世界が消えてなくなることを恐れる。

好きな男の子にやっとの想いで告白しオッケーもらったのに、その幸せを明日失いたいか?

亡くなった兄の嫁に恋心を寄せているのに、成就しないまま終わらせたいか?

セル世界の住民もこの狭い世界で必死に生きている。必死に世界が消えてなくなることを防御したいと思ってる。

彼らの意思に反して、主人公の男の子・正宗と世話役の女の子・睦実は、五実(いつみ)と名付けた謎の少女(工場に隠されている)を現実空間に送り返そうとする。

この主人公の正宗と睦実と五実にはある共通点があり、そこは映画でご覧下さい。

全体的なメッセージとしては、明日消えてなくなるかもしれない今の世界で、今を一生懸命に生きること、今の幸せを守るために一生懸命でいること、

それは、過去であろうと未来であろうと生きている今を精一杯生きること。これが最大のメッセージだと思った。


設定をややこしくしてるだけであってメッセージは非常にシンプルだと思った。実際の監督の意図は分からないけど。

予告で見た「お前もオスか!?」って台詞がどこで出てくるのかと思いきや、めちゃくちゃ強い言葉だから、重いシーンで使われるのかと重いきや、意外とシンプルなシーンで使われていたのでちとガッカリしたけどね。っていうか、予告でこの台詞を聞かなかったら絶対観てないけど…。藁

それは良しとしても、作品としてはアニメじゃないと作れない世界観ではあるので、ラスト上映前に観れて良かった。

終わりよければすべてよし

2023-10-22 16:48:06 | うらけん

ソワレはこちらを観ました。

「尺には尺を」同様、まるでラース作品を見ているかのようにダメンズしか登場せず、「ヴェニスの商人」のポーシャみたいに頭がキレる女性が主人公で、面白いことにどちらも処女を、貞操を守ることを尊厳とした女性像が描かれている。

今では考えにくいと書いたら女性に失礼だとは思うが、シェークスピアの時代の独身女性は、処女か売春婦のどちらかしかいなかったんだろねって想像してしまう。

「尺には尺を」は脚本的にも面白いと思ったが、「終わりよければすべてよし」は、ぶっちゃけ、作風が似てたので「尺には尺を」の二番煎じ感が否めなかった。当たり前っちゃ当たり前なんだけど。

また、最後まで浦井バートラムが朋子ヘレネを毛嫌いする理由が全く分からなかったのが唯一の残念要素。

ヘレネ役って、実は、朋子さんじゃなくて那須佐代子さんが演じた方が姉さん女房風で嫌味感があってしっくりきたのかな?って思ってしまった。

朋子さんだと可愛さも相まって全然非の打ち所が見えてこないから、浦井バートラムにあそこまで嫌われる理由が全く見えてこない。ただただ不憫でならかった。


それ以外は、「尺には尺を」の二番煎じ感色が強いなー、そういうものかーと思ってしまったくらい。

だからかは分からないが、こちらは舞台演出にかなり動きが加わっていた。池、布、照明、客席降りなど。

こちらは、浦井氏と朋子姐さんがメインに話が展開し、「尺には尺を」では、浦井氏はそんなに出てこなかったし、朋子姐さんももっと出番が少なかっただけに、「終わりよければすべてよし」は2人ともメインなので本領発揮でしたね。

何と言っても、浦井バートラムのゲスぶりが、「尺には尺を」のクローディオよりも更に磨きがかかっていて、笑えるという意味ではなくめちゃくちゃ面白い役どころだった。

かつてのトロイラス役もゲスの部類に入るけど、まだ人間味があった。バートラムは完全に最低男だった。「尺には尺を」の岡本さん演じるアンジェロと同じ役割だった。

クローディオはまだジュリエットに一途な分愛すべきゲスぶりだったけど、こちらは完全に女たらしのゲス役だからね。だからヘレナになびかない理由が見えてこないんだけどね。

浦井氏の場合、主役をはる人だから良い役が回ってくるのは普通な分、悪役ではないが女たらしのゲス役なので見ていてめちゃくちゃ新鮮だった。悪役のマクベスも良かったが、ゲス役も意外とハマっていたのが驚きだった。

ヘレネを演じた朋子姐さんは、非の打ち所が全くなく、バートラムに一途なところも含め、フランス王を利用してバートラムと結婚するくらいの下心があってもいいやん!って言いたくなるくらい、浦井バートラムがゲス野郎にしか見えないくらい、同情の余地しかないヘレネ像に作り上げてました。

二幕目のヘレネなんて健気!ますますバートラムのゲスさが際立つ。そういう意味では面白い脚本。

人間だれしも下心はあるよ。

下心と一途さは全く別モノで、「尺には尺を」のアンジェロのように下心と裏切りとはもっともっと別物のわけやん。

じゃあ、ヘレネとアンジェロのどっちを応援しますか?ってことになるやん。

ヘレネに決まってるやん。

二幕目の朋子ヘレネこそマリア様だったよ。素晴らしかったです。


岡本さん演じるフランス王は、もうオチャメ。アンジェロ役と対照的な役どころだったね。

ソニンちゃん演じるダイアナは、バートラムに誘惑される役。マリア様みたいにめちゃくちゃ光輝いていて、そりゃ誘惑されてもおかしくないオーラを纏っていた。

「尺には尺を」ではチョイ役だった立川さんと那須さんの存在が大きく、特に立川さんの力がこもった台詞回しや魂を注入してる感があるくらい力説していて、ぶっちゃけお身体を心配してしまったほど。

「尺には尺を」では売春宿の女将?をパンク風に演じていた那須さんが、こちらでは貴族感溢れる気品さがあり、そのギャップが堪らなかった。「エンジェルス〜」の母親役もラビ役も出色だったが、那須さんの表現力と引き出しの多さに慄くばかり。

「尺には尺を」では、宮津侑生君演じるルーシオ役の道化っぷりが出色だったけど、こちらでは、ルーシオに相当する役のベーローレス役の
亀田佳明さんが出色だった。

ガチの道化師の風貌の吉村直さんもキュートで良かった。

最初に書いたように「尺には尺を」も「終わりよければすべてよし」もダメンズしか登場せず、男性は、ゲス、道化、ヘタレしか登場しない。代わりに、女性は、男性に蔑まれつも叡智に富んでいる。どちらもフェミニスト色が強い作品だった。

独身女性は操を守っていたり、本来結ばれてべき相手と一夜を過ごさせたり、最後は無理矢理
大団円感があったりと同じ設定なのも、2作並べてるからこそ見えてくる部分だった。

ヘンリーシリーズのように、同じタイトルの3部構成であったり2部構成の1日連続上演もかなり大変だったとは思うけど、違う作品の連続上演も本当に大変だと思いますが、初めての方もいらっしゃると思うし。

千秋楽に向かうにつれてもっともっと作品が熟成されているのが視えてくるので、お身体に気をつけて千秋楽まで頑張って下さい。


今後は、新国立劇場の鵜山組によるシェークスピアシリーズとして全37作を目指して欲しいです。

鵜山さんなら理解不能な「テンペスト」をどう演出するのか観てみたい。

それよりも、できれば、今の座組のまま「ハムレット」の上演を切望します!!


尺には尺を

2023-10-22 15:31:57 | うらけん
先ず初めに、

有楽町のマクドナルド様に感謝です。無事観劇でき、無事帰宅できました。本当に本当に感謝しかありません。

神様にも有楽町界隈を行き来されている方々にも感謝の気持ちでいっぱいです。

本当にありがとうございました!


ここから本題です。

さすが、シェークスピア大先生と新国立劇場鵜山組だけあるわ!

めちゃくちゃ面白かった!

まるで日本の時代劇「遠山の金さん」を見てる感覚があって、まさにあのお白洲シーンが白眉だった。「ヴェニスの商人」にもあったね。

言葉遊びはさておき、「ヴェニスの商人」よりもはるかにウィットに富んだどんでん返しと大団円と皮肉さ入り交じっており絶妙だった。

さすが問題劇だと言われてるだけあって、私みたいな庶民にはゴシップネタ的な問題だけど、ある程度の地位やステイタスをお持ちの方々にはなかなかの痛いとこを突く問題劇だったと思う。最後の最後までアイロニーたっぷりだった。

それくらい、まるで今の日本社会の状況を見通してチョイスされたのでは?と思うほど、日本社会を風刺する内容にもなっていて、めちゃくちゃタイムリーな内容で驚いた。

まさに今の日本やん!?と言いたくなるくらい、シェークスピア大先生が生きていた時代と何も変わってないことに更に驚きだった。

ラストのソニンちゃんの表情が全てを物語ってた。最高なアイロニーぶりだった。

ということで、新国立劇場に行ってきました。

本当はね、11月に観たかったんだけど、優先すべきことが11月に増えてしまい初日が開いて間もないホヤホヤの、マチソワ交互上演の初回を観てきました。

シェークスピア作品って、バレエと同じで頻繁に上演される演目が決まっている中、

新国立劇場は、ヘンリーシリーズしかり、世間では上演されにくい作品を積極的に上演して下さり感謝しかありません。戯曲も読んでない舞台も観たことない作品がまだまだあるからね。


「尺には尺を」って言いかえれば「目には目を」の意味になり、まさしくそういう展開のお話なのに、大団円の綺麗事で終わらないラスト、お前もか!?と言いたくなるとラストがマジ秀逸だった。

戯曲本を持ってないからラストは、戯曲通りなのか、鵜山さんの演出なのかは分からないですが、最後の最後までアイロニーたっぷりでマジ圧巻だった。

歴史は繰り返されるが、結局何も学んでないやん!?を象徴しているかのようだった。

私も人のことは言えない。実は、まだ舞台を観ていない時間帯に有楽町のマクドナルドで財布を落としてしまったからね。これで2回目の財布紛失。場所が特定出来たからよいものの、歩いている最中に落としていたらもう探しようがない。財布がないことに気付いたのは、マクドナルドを出て2時間以上経過していたからね。

店員さんが見つけてくれてなかったら本当に大惨事。なんてたって東京だよ。どうやって帰る?まだ携帯があるからなんとか高速バスか電車の予約が可能だけども、さすがに財布が見つかるまでは舞台を観る余裕もなかったよ。本当に、有楽町のマクドナルドさんに感謝です。

そんなことが、高速バスで東京に着いていきなり起こりました。

もうあの焦りは3度も味わいたくない。

私のことはさておき、

本当にめちゃくちゃ面白い脚本だった。

今回の鵜山演出というか、美術は、とってもシンプルなのに、ストーリー展開がわかりやすかったのもめちゃくちゃ良かった。

中ホールって、ホリゾントまで遠いのに前方の客席を潰したうえで舞台中央に壁を作り、贅沢な空間だった。

本作は、岡本さんとソニンちゃんが中心で、ソニンちゃんの演技だけだと悲劇的内容なのに、それ以外の登場人物がコメディーリリーフとして存在していて、その悲劇要素と喜劇要素のさじ加減やギャップが更に作品を深めていたし、また人間性の善悪がより浮き彫りされていたように感じた。

ソニンちゃんが本当にめちゃ出色だった!

浦井氏演じる兄が貫通罪?で死刑判決が下され、死刑放免してもらうためには、自分の処女を岡本さん演じる公爵代理に捧げなくてはならない。

兄への想い、女性としての尊厳、公爵代理への不信感などなど、私が財布を失くした時と同じように、死刑執行まで時間がない焦り、兄を助けたいがだからといって自分の貞操は失いたくない気持ち云々やらで心がかき乱されている。

そこだけじゃないが、ラストの公爵代理への赦免の表現も大変素晴らしかった。

岡本さんは、まるで「ヴェニスの商人」のシャイロックみたいな存在で、厳格さと下心といった男の理性と本能剥き出しの表現がでとても滑稽でまたチャーミングで良かった。「ベニスの商人」ほどの悲劇性は強くはなく、改心が裏テーマの役割を担っていた。

朋子さんなんて出番が少ないのに、めちゃくちゃ重要な役で、最後は泣かせる演技で白眉だった。

浦井氏もそんなに出番は多くないが、とんでも兄貴役で、死刑判決を一旦は受け入れるが、死にたくない気持ち、妹に犠牲になって欲しいと思っているちょっぴりゲスな役どころ。妹役のソニンちゃんが真剣であればあるほど兄貴の愚直さが滑稽で笑えてしまう。めちゃハマり過ぎ!藁

鵜山組の常連かつ大御所の勝部演之や立川三貴さんの存在も、お二人の存在だけで作品に厚みを出す役割を担っていて、本当に有り難い存在。

木下浩之さんの公爵が、遠山の金さんみないな役柄で、ラストのオチも最高だった。ツッコミ入れたかった。

本当に面白い作品でした。

めちゃオススメ!