「月」著者:辺見庸

2023-10-18 11:39:20 | 
そりゃ、りえちゃんも磯村君も出演を躊躇うわな。私が俳優だったら躊躇う。

やっぱり石井監督の脚本には優しさしかない、優しさが溢れているのが原作をよんで改めて気付かされた。

石井監督の脚本だけなら即決快諾したと思う。でも、原作を読んだら護身に走ってしまうかな。私なら。

それくらい辺見庸さんの言葉選びが挑発的かつ批判的で、ぶっちゃけ的を射てる。

まるでさとくんの言葉が辺見庸さんの言葉にしか聞こえない。あの植松被告の言葉とは思えないくらい、社会への批判色を強く感じた。

原作は障害者のきーちゃん目線で描かれており、きーちゃん目線でさと君を描写し、また、きーちゃんの片割れとなる分身となる人物を登場させることで、動けないきーちゃんに代わって、きーちゃんがいない所でのさと君を描写する役割を担わせている。

そして、原作には、りえちゃんとオダジョーさん夫婦も登場しなければ、ふみちゃんの役も原作に該当者はいない。

きーちゃんの片割れというコンセプトは、映画でも活かされりえちゃんが担うが、原作とは人物設定が異なる。原作の片割れは、殺人現場に登場してさとくんを止めようとする役割を担っているが、りえちゃんは現場にはいない。

映画では、施設の闇、登場人物の内面の葛藤や悩み、そして社会における自分の立ち位置を明確に描かれているが、原作は、さとくんの闇がメインで描かれている。きーちゃんは、身体障害者であって思考はとても頭脳明晰に描かれている。

また、障害者という動きや発言に重い障害があることを言葉で説明せず、文体で表現しているところが、文章芸術を感じた。漢字を使って欲しいところをひらがなで書いていてめちゃくちゃ読みにくい。

読者が頑張って脳内で漢字変換しないと文章を理解しにくいという手法を取っていて、実際に発語に障害がある方ってスムーズに喋られないからそれを文体で表現していると私は思った。実際は知らないけど。

映画は、原作の20%の要素を拝借して、石井監督のほぼオリジナルの脚本になっているけども、辺見庸さんが伝えたかったメッセージは、全部ではないが伝えていたと思う。

ここで書くのもなんだけど、映画「ロストケア」は原作の5%を拝借して、残りは、脚色のレベルを超えた完全なるオリジナル内容だった。関連性が薄すぎて読むのに3週間以上かかった。原作者へのリスペクト云々関係なく映画の方が断然良かった珍しいパターン。

はい、余談でした。

「月」は、原作は原作で、映画では伝えていない明確なメッセージも書かれているので、映画が原作の、原作が映画の欠けている部分を補完しあっているとは言えないが、映画には映画の良さがあり、原作は原作の良さがあった。

私個人的には映画の方が良かったけどね。

映画は、人間と命の尊厳だけでなく、現実社会の非道さに対して見ぬふりすることへの罪悪感も強く描かれていたけども、原作は、命の尊厳だけでなく、人間ってなんなんだよ!?という人間の存在理由自体を問題提起していたように感じた。辞書で書かれている人間の定義がその通りなら、それにそぐわない人もいるからね。

やはり、人間の存在理由も、人間を殺してはいけない理由と同じで、明確な答えを導くことができない。重いテーマだけど、大事なテーマ。


ということで、春画先生のお口直しに…m(__)m「月」の原作を読みましたが、ぶっちゃけ書くと、2日で読んでしまったけども、決して読みやすかったわけではない。もちろん文体表現の読みにくさもあったけども、それ以上に、最初の200ページは、ぶっちゃけ頭がこんがらがって理解出来ていない部分が多かった。

きーちゃんが頭脳明晰で哲学者みたいに描かれていて、私の脳では理解し難いものがあったし、登場人物が、障害者なのか健常者なのか、介護スタッフなのかそうでないのか、そもそも男性なのか女性なのかも分からなかったから余計頭が混乱した。

残りのページには、映画でも取り上げられている部分が多かったから読みやすかったけどね。

私個人的には、痛い描写があって、まるで私自身がさとくんの犯罪に加担しているのではないか、これからもそういう人物が登場するのではないかと思わせる描写があり、映画では描かれていない精神鑑定のシーンなんだけどね。映画でなぜさとくんがすぐに退院できた理由が、私には心が痛くなった。

私が加担した、というより悪用されたっていう感じ。全く関わりはないが、さとくんが一気に他人でなくなった感覚を味わった。

私も一歩間違えたらさとくんと同じだったことを、私自身に突きつけられているようだった。

そういう意味でも、石井監督の脚本は、私にたいしても優しさに溢れていた。全くの他人様ですが…。「愛にイナズマ」も絶対観ます!

原作を読むとなおさら、映画をオススメしたい。海外で賞を獲って欲しい。てか、獲れる作品です!