goo blog サービス終了のお知らせ 

水彩画と俳句の世界

自然を愛し、感性を大切にして「水彩画と俳句の世界」を楽しんでいます。

母校は葛城小学校

2008年07月24日 20時20分45秒 | 春の俳句
                  唐橋遠望(随筆と無関係)
特別寄稿
 母校は葛城小学校
 (ある日の出来事)

       藤田幸寿

「響」五月号の主宰作品十句の中に、次の句が載っていた。「さくら咲く母校は葛城小学校」。この句を読んで、ふと、ある出来事を思い出した。
 私は、葛城小学校で中嶋秀子さんの五年、六年の担任であった。あの日から六十年ほどの月日が流れた。
 夏休みも、間近に迫ったある暑い日の五時間目は、図画の時間で画題は「中川周辺の風景」になっていた。私は急用ができて、クラスの子供たちに「先生は少し遅れてゆくので、写生を始めいてください。決して川に入ってはいけません」とダメを押しして、子供たちを送り出した。中川の土手は、学校からほんの四、五分のところである。職員室での仕事が思いの外手間取って、私は慌てて土手に駆け上がった。数人の女の子が私を見ると、「先生、○ちゃんと△ちゃんは、川で泳いだよ」と注進におよんだ。見ると二人の子はすでに着衣して写生をしている。ほんのチョット川に入ったらしい。中川は人造の方水路で水深が深い。この川での遊泳は厳しく禁止しておかないと、命にかかわる事故の恐れがある。写生を終えて、戦災跡のプレハブ教室に戻った。
 教室に入るなり「○君と△君は、先生の注意を守りませんでした。先生の言いつけを守らない子は教えられません。よその学校へ行ってもらいます。」私は自身の不注意を後ろめたく思いながらも、二人の学籍簿(指導要録)を持ってきて、「さあ、これを持ってよその学校へ行きなさい」と言った。男の子は深くうなだれて、教室は氷のように冷たく静まりかえった。
 ややあって、中嶋さんがすっと立ち上がった。「先生、二人はもうしないと思います。許してやってください」。仲良しの正子さん(後に皮膚科医)も立ち上がった。「ここが肝心だ」簡単に許しては、先々子どもたちの命にかかわる水の事故が起こるかも知れない。私は強い調子で「ダメです」ときっぱり言った。教室は重苦しい沈黙に包まれた。と中嶋さんが再び立ち上がった。「二人があんまりかわいそうです。私も一緒に転校させてください」、つづいて「正子さんが、「私も」と言った。
 ことは思わざる展開となった。教室中が一瞬大きくどよめいた。この辺りが潮時か、私はわざとしぶしぶ二人を許すことにした。もう、中川で泳ぐことはあるまいと確信しながら。

句誌「響」2008年7月号 N0.264より転載


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳥帰る

2008年07月09日 19時18分44秒 | 春の俳句
句誌「響」2008年7月号に特別作品として掲載された池田洋子さんの15句の内の感銘7句を掲載します。
 
 「心音と雪解の雫響き会う」
冷たい雪解けの雫を心音と感じられた感受性に脱帽しました。以前に巻頭句に響の句がでていたことありました。きっとこの句はそれにひったし。

 「千年の王朝絵巻花蘇枋」
今年は源氏物語千年紀。源氏絵に描かれた花蘇枋はどんな花。誰の作品でしょうか。

 「猿沢池(さるさわ)は澄まず濁らず亀鳴けり」
亀の鳴く声は拡声器を増幅してみたら聴けるかも。
地元の猿沢池に亀を鳴かせて、ユーモアと情緒ゆたかな感動句。

 「ふらここの両手離せば鳥になる」
天高くブランコ漕いで、もろて離せば空飛ぶよ。スーポーおじさんの民話ごとくに。

 「鳥帰るかつて空には伝書鳩」
子供の頃、鳩を沢山飼って一度に離して飛ばしている光景をみましたね。また、離島から離島への通信の方法など。季語と伝書鳩の取り合わせが郷愁を帯びて絶妙。

 「蚕豆にギリシャの海の塩少し」
フランス・ゲランド地方に短期留学した娘の土産は塩でした。いまも、貴重品扱いで少しふりかけます。

 「漂泊の旅してみたき桜貝」
「桜貝つれて来し波引き返す」中沖津耶
桜貝は淡桃色で透きとおった3センチくらいの貝で、その名の由来は桜の花弁に似たところからきたと思われる。南日本の浅海に産し、春はことに美しい光沢がますと言われている。作者は桜貝なって見知らぬ海へ漂って旅をしたいのだろう。日常の全てを忘れて。

                             惟之


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

杏の実

2008年07月02日 20時57分02秒 | 春の俳句
長命寺の紫陽花2

命惜し青きまま落つ杏の実  中嶋秀子
親舟が子舟曳きゆく花くもり
初蝶の命溢るる羽使い    大立しづ
出港の汽笛を運ぶ春一番   除田兎城
春の夢忘れまいとて眼を開けず 柏木とよ太
春かすみ舟と小佐渡をかくしけり 坂本愛子
背くらべした日は遠きつくしんぼう 池田暎子
いかなごの釘一寸の箸の先  村西徳子
スーホーの白い馬駆け霾ぐもり 池田洋子
花えごの匂いの風と仰ぎけり 神山桂子
百日紅夜は白蛇の滑り台   佐藤洋子

    句誌「響」6月号 No263より

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雪解水

2008年07月02日 20時54分32秒 | 春の俳句
長命寺の紫陽花1

分水嶺飛騨へ美濃へと雪解水 田中いく
梅挿せるぽろりと一輪日溜りへ 内田光子
囀りに始まる峡の一日かな  西沢照子
水蹴って水蹴って鴨帰るかな 杉本正光
陽炎や土手一せいに滑る子ら 近藤節子
花は葉に子はそれぞれの道選ぶ 村山直朗
正座してしばらく雛と語らえり 富沢栄子
空っぽの埴輪のまなこ黄砂降る 天野厚子
庭隅のはっとまぶしきクロッカス 白井芳子
ほんのりと椿化粧をして開く  池田暎子
おとうとの遺愛のギター春埃  池田洋子
春月や病の窓に傾きぬ     浦 純爾
暮そめて沈むことなく白き梅  奥村洋子
すと伸びて喇叭水仙ぱっと咲き 武田捨広
子沢山春泥の着く靴並ぶ    森本敬子
かたはらに語る人なく初音かな 西村和子
そこかしこ花の名札や土の上  朝倉哲雄
剪定を待ちて飛びくる雀かな  伯耆惟之
親子ふね切裂く艦や冴え返る  伯耆惟之
天草のパールラインや風光る  舘 善
春雷の一喝に数珠目覚めけり  足立心太

          「響」2008年6月号より転載
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スーホーの白き馬

2008年06月27日 21時48分29秒 | 春の俳句
夏椿

スーホーの白い馬駆け霾ぐもり 池田洋子

「スーホーの白い馬」はどんな馬? 
空は黄砂でどんより曇り
きっと白い馬は山の麓か稜線を駆けている雲
どんどん形は崩れてやがて消えてしまう

雲を見ているとあきないですね。
夏の句ですが 

「クレーンを吊上げそうな夏の雲」
「湖風や頭突きしそうな夏の雲」
「スピッツの如く夏雲比良駆ける」
       
                惟之
    





コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

春の船

2008年06月01日 20時46分31秒 | 春の俳句
春激震能登の波濤や千枚田
曙や鮊子舟の灯り行く
湖風や浜一面の芝桜
花海棠垂れて朝日を弾きおり
大楠の下に香りし蓬草
湖魚の綱高く吊り居て春の船
浮御堂庇の遠く花吹雪 

平成19年4月  惟之
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラ・カンパネラ

2008年06月01日 20時43分06秒 | 春の俳句

囀りは森の奏でるアリアかな
のどけさや馬も草食む昼休み
春の音やラ・カンパネラの鳴響く
山茶花の紅を零して暮れ残る
花散りて湖に響きし三井の鐘
読経や花降りしきる観音堂
六角堂潜り舞来る花片かな    

平成19年3月 惟之
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

蕗のとう

2008年06月01日 20時38分15秒 | 春の俳句

春の犬耳飾りつけ渚ゆく
卒業やリストのピアノひびく今朝
ワンタンや喉につるりと春の味
経塚のいわれの跡や春の雹
谷間の午後の日差しや蕗のとう
春キャベツ陽のやわらかき口当り
菜の花のうま煮の会話ほろ苦き

平成十九年二月 惟之
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

花明り

2008年05月19日 03時39分46秒 | 春の俳句
春燈や寄進瓦に名を墨す
鉈彫りの円空仏の春微笑

戯れて二匹の蝶の競上り
つちふりて空も琵琶湖も銀の色

比良山(ひら)晴れて畦に土筆の群れおり
楼門の奥より零る花明り
比良望む天井川の花吹雪
 
二〇〇六年四月
         惟之
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イナバウア

2008年05月06日 20時06分16秒 | 春の俳句
銀盤の滑り春めくイナバウアー
初蝶や黄羽にうっすら黒斑点
碁石打つ音の響きや春座敷
文旦や地蔵のごとき頭かな
春めくや娘の手土産は金平糖
轟々と渦巻く春の潮かな
刻々と海の春暁広がりぬ

2006年3月
惟之
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする