雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のエッセイ「おーい、お茶」

2015-01-13 | エッセイ
   「おーい、お茶」
   「はーい、ただいま」
 そんな一般家庭なみの生活は、我が家にも3年くらいはあったのだろうか。家内の入院と家庭療養の繰り返しで、いつしか逆転してしまった。   
   「お父さん、お茶」
 台所で片付けをしていると声がかかり、「はーい」みたいな…。

 ランチタイムに、近所の「くら寿司」や、「スシロー」で食べることがちょくちょく有るのだが、お茶はセルフで、「粉末緑茶(実際は粉末玄米茶)」で入れる。湯呑みに龍角散に添付している匙くらいのもので粉末を一杯入れて、蛇口からお湯を注ぐ。決して旨い茶ではなが、急須で入れるより簡単便利である。猫爺など、お茶には全く拘らない人間には、打って付けだ。粉末緑茶は、くら寿司で缶入りのものを買ってきた、これは缶の蓋を回すと穴が開、そこから振り入れることができるので匙も要らない。

 ここで役に立つのが「ダイソー」のミルク泡だて器である。「セリア」で買ったまっすぐなタイプは、電池が新品であれば回転速度が早いので、小さな湯呑みであればお茶が溢れてしまう。その点、「ダイソー」のものはギアが入っているのか音が大きく速度は遅いので好都合。現在の猫爺は、一人でお茶をいれて一人で飲んでいるので、便利なアイテムである。
 
 これって、茶道の茶筅に使うと楽だと思うがどうだろう。無作法かな?(^_^;)

 
 業務スーパの、中国産筍、蓮根、薇、山菜などの水煮が安いので、貧乏人の猫爺は助かる。だが、それらは漂白しているために、そのまま水で洗って煮ると薬臭かったり、妙な酸味があって不味いことこの上ない。
 そこで、煮る前に重曹水に浸けておくと、けっこう旨く食べられる。調理してからボールに食材が浸かる程の水と、小匙やまもり一杯程度の重曹を入れ、108円泡だて器で軽く混ぜて30分程度置くだけである。ダイソーに掃除用重曹というのがあるが、猫爺はマツモトキヨシの食用(あく抜き)重曹を買って使っている。

 胡瓜などの酢の物を作るとき、酢、砂糖、塩と、猫爺は酸味が苦手なので水も入れる。ワンカップ日本酒の容器にそれらを入れて、泡だて器で撹拌すると、綺麗に混ざって底の方に砂糖が沈殿することがない。

 108円グッズは、すぐに壊れるモップや、最初から書けないボールペンなどがあるのだが、このグッズは、随分長く重宝している。

猫爺の連続小説「三太と亥之吉」 第二十四回 亥之吉の不倫の子

2015-01-13 | 長編小説
 夕暮れ前、江戸は福島屋の店先で店じまいの準備をしている三太に手招きをしている見たことのない女がいた。色街の女であろうか、まだ明るい内というのに厚化粧であった。
   「どなたでおます?」
   「旦那さんに用があってきました、お駒といいます」
   「折角ですが、旦那さんは留守でおます」
   「日が暮れるまでにはお帰りになりますか?」
   「それが旅にでておりまして、いつお帰りかわかりまへんのやが」
   「では、三太さんという小僧さんはあなたですか?」
   「へえ、さいだす」
   「ちょっと話を聞いて頂きたいのですが、ここでは何ですからそこの路地まで一緒に行ってくれませんか?」
   「わかりました、ちょっと女将さんの許しを貰ってきますから、待っていてください」
 お駒は慌てて三太を止めた。
   「女将さんに知られたくないので、ほんの少しの時間ですからこのまま…」
   「へえ、そうします」
 並んで行きかけると、お駒は自分のお腹を擦った。
   「実は、ここに旦那様のお子を宿っているのです」
 三太は驚いた。お駒のお腹を見ると、幾分ポッコリとしている。三太はお絹が常日頃言っていた言葉を思い出した。
   『そら男の甲斐性やさかい妾を持つのはとやかく言いまへんが、わたいに内緒で外に子供を作るのは止めとくなはれ』

 これはもめるぞと、三太は思った。お絹は大坂の福島屋の娘、亥之吉はそこの番頭であった。惚れ合って一緒になった夫婦なのに、「あのスケベは、何をしやがるねん」と、お絹が可哀想に思えた。
   「それで、産みはるのだすか?」
   「このお江戸で産みたいのですが、旦那様のご迷惑になったらいけないので、どこか遠くに行ってこの子産み、一人で育てていくつもりです」
   「それでお駒さんはええのだすか?」 
   「はい、生涯旦那様の前には現れないつもりでおります」
   「子供は父なし子だすが、可哀想やと思いませんか?」
   「仕方がありません、奥様がいらっしゃる殿方に惚れてしまった私がわるいのです、この子に詫びる気持ちを忘れずに、大切に、大切に育てます」
 三太はお駒が可哀想になった。
   「それでいつ旅に…」
   「はい、すべて支度はしております、今日旦那様にお別れを言って、明日発つ積りで来ました」
   「悪いのは、無責任な旦那さんだす、みんな女将さんに打ち明けましょう」
   「それでは、女将さんも傷つけてしまいます、それだけはお許しください」
   「旦那さんから、十分なお金を貰っているのだすか?」
   「今月いっぱい食べていけるだけのお金は頂戴しております」
   「それでは、路銀にも足らしまへん、戻りましょう、わいが女将さんに取り持ちます」
 お駒は、おおいに戸惑ったが、三太に引っ張られて仕方なく店に向かった。

   『三太、この女の言うことは、みんな嘘ですぜ』三太の守護霊、新三郎が話かけた。
   「嘘、こいつまんまとわいを騙しやがって」
   『どう出る積りなのか、もう少し騙されてみてはどうですか?』
   「うん」

 店に戻ると、三太はお駒を待たせておいて、奥へ引っ込んだ。お絹にすべてを話すと、お絹は真吉に何事か囁き、真吉は裏口からこっそりと出て行った。

   「あんたさんがうちの亭主のお手掛はん(愛人)だすか?」
   「はい、お駒と申します」
   「お駒さん、親兄弟は?」
   「天涯孤独です」
   「それはお寂しいことだす」
   「すみません、三太さんがどうしてもと仰るもので、つい来てしまいました」
   「いえいえ、うちの亭主がとんでもないことをしまして、御免なさいね」
   「奥さんの有る殿方と知りつつ惚れた私がわるいのです」
   「それで、どうすれば宜しいのだすか?」
   「明日、どこか遠くに参ります、少し、このお腹の子供にお情けを頂けたら、もう二度とこのお店の敷居を跨ぐことはありません」
   「子供は、どうなのだすか?」
   「たとえわたしがこの身を売っても、立派に育て上げる積りでおります」
   「幾ら出せば宜しいの?」
   「はい、二十両いや、三十両も頂ければ十分でございます」
   「三十両ねえ、その話が本当なら百両でも二百両でも出しましょう、でもうちの旦那は、そんなふしだらな男ではないのだすよ」
   「でも、こうしてわたしのお腹に子供が…」
   「本当にうちの亭主の子供ですか?」
 お駒は泣き崩れた。
   「こんなことなら、ここへ来るのではなかった、三太さんを恨みます」
   「ところで、店の表でお駒さんのことを覗き見している強面の男が居ますなあ」
   「そんな人は知りません、他人です」
   「そうかなあ、呼んでみましょうか」
 お絹は、言うなり表の男に声をかけた。
   「お駒さんがお呼びだす、そこな方、どうぞお入り」
 男は裾をはしょり、店に飛び込んできた。
   「お駒、どうした?」
   「あっ、お前さん…」
 お絹は、にんまりとした。なかなか強気である。
   「あんさん達、夫婦だすな」
   「ばれてしまったか、こうなれば大暴れしてやるか」
 お絹は店の奥に向かって大声をだした。
   「お店の衆、出てきておくれ、強請りだす」
 店の衆がばらばらと出てきたが、強請りの男が短ドスを出して左右に振り回したので、また引っ込んでしまった。
   「何や、うちの男は溝の糸ミミズみたいに意気地のないのばかりやなァ」
 黙って見ていて三太が、とつぜん大笑いをした。
   「何だ、このガキ」
   「わいは三太や、噂ぐらい聞いとるやろ」
   「あの他人の心が読めるガキか」
   「そうや、お駒さんのお腹の子は、おっさんの子供やろ、その子の前で強請りなんかして、恥ずかしくないのか」
   「喧しい、お前から先に黙らせてやるわ」
   「わい、お喋りやから、なかなか黙らへんで」
   「煩い、痛い目に遭わせてやる」
 ドスを三太に向けた。
   「お駒、そこの抽斗を開けて金を奪え」
 帳場の座卓を顎で示した。その間に、かねて三和土の隅にねかせて置いた天秤棒を手に取ると、男に向かって斜に構えた。その時、表口から同心が岡っ引きを連れて入ってきた。
 同心は、懐から十手を出すと、男のドスを払い落とし、あっと言う間もなくお縄にしてしまった。岡っ引きはお駒を縛った。
   「何や、三太兄ちゃんの喧嘩が見られると思ったのに、お侍さん早く来過ぎや」 
 亥之吉の長男、辰吉がお絹の後ろへまわり、不服そうな顔をした。  


 こちらは、信州の三太こと、緒方三太郎の診療所である。突然亥之吉に連れられてやって来た三人、卯之吉とその母親、妹のお宇佐の収め先は決まった。卯之吉は文助のもとで八百屋の修行をして何れは自分の店を持つ。母親は三太郎の診療所で十分に療養をして元気になれば療養所の手伝いをしてもらう積りである。妹のお宇佐は、当分は三太郎の療養所を手伝ってもらい、いずれは小諸藩士の山村堅太郎に引き合わせようと思っている。後に賭場(とば)で知り合った信州佐久の三吾郎は、三太郎の診療所で泊り、亥之吉は今夜、佐貫の屋敷に止まる。明日、二人は落ち合って北国街道を上田から小諸、三吾郎の故郷佐久の追分で中山道に進路をとり、江戸へ戻る段取りである。

 亥之吉が、今夜佐貫の屋敷に泊まることは、三太郎の弟子佐助を走らせて、佐貫家の客人がお帰りになったことを確認したうえに知らせた。主人佐貫鷹之助の了承は取ってある。鷹之助の母小夜も、亥之吉に鷹之助がお世話になった礼が言いたいと心待ちにしている。

   「亥之吉さん、三太は元気にしていますか?」
 三太と同じ「鷹塾」の塾生、源太である。源太は鷹之助の弟子として、鷹之助の付き人役をしている。今日も二人は藩校明倫堂から帰ってきたところであった。
   「元気だっせ、元気過ぎて手に負えんこともおます」
   「それは良かった、いつか会いたいです」
   「そうだすな、この旅の伴をさせたら良かったのだすが、三太は強くなったので、うちの用心棒でもあるのだす」
   「そうですか、それは頼もしい」
 鷹之助が挨拶に出てきた。
   「ようこそいらっしゃいました、三太がお世話になっています」
   「三太は、先生に教わったことを常に思い出して守っとります」
   「そうですか、お恥ずかしい限りです、亥之吉さんの仰ることもよく聞いていますか?」
   「へえ、それが…」
 亥之吉はそこでクシャミを一つした。
   「三太だすわ、三太がわたいの悪口を言っているみたいだす」

  第二十四回 亥之吉の不倫の子 -次回に続く- (原稿用紙12枚)

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