竹原BLOG:奈良民話祭り ― グリム童話・メルヘン・語りの文化 とっておきの話。 

夏の奈良民話祭り:8月5日(金)午後3時より奈良町物語館で4回公演!
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再び「伯母が峰の一本足」を語ろう!さてどんな妖怪かな?

2010年10月18日 | 日記
今、吉野の民話地図を作成中です。

吉野には「蛙になった人間」、「ガタロウのくれた薬」、「狼報恩」、「犬を飼わない村」など
動物や妖怪が出てくる話もたくさん、あります。
吉野での妖怪話といえば、やはり「伯母が峰の一本足」でしょう。

5月19日のブログ
でも一度取り上げましたが、
もう一度、別ヴァージョンで語ってみよう!


伯母が峰の一本足

むかし、伯母が峰に大きな猪(イノシシ)が出て人をとって食ういううわさやってん。
あるとき、ひとりの侍が、
「その大猪、退治したろ」いうて犬連れて山の中に入っていってんて。
伯母が峰の奥まで来ると犬がえらい鳴きだしたん。
見ると、クマザサがえらい揺れたあんねん。
ところが、クマザサやと思たんは、背中にクマザサがいっぱい生えた猪やってん。
猪は、だあっとかけだして、谷渡って逃げよった。
犬は追いかける。追いつめられた猪は牙鳴らして犬に向こうてきた。
侍は、ねらい定めて鉄砲を撃った。
猪は弾が当たって暴れまわりよったけど、
とうとう力尽きて倒れてしもうてんて。

それから何日かして、紀州の湯の峰温泉に、
足を痛めたひとりの野武士が湯治に来てんて。
野武士は宿の主人に、
「静かなはなれの座敷かしてくれ」いうてん。ほんで、
「わしが寝てるときは、だれも来たらあかんぞ。のぞいてもいかんぞ」いうねんて。
あんまりきつういうもんやから、
主人は(おかしいなあ)と思て、夜寝にそっとのぞいたんや。

ほしたら、寝とったんは、背中にクマザサが生えた猪やってん。
主人が(あっ)と思たら、そいつ目さましよった。
「きのう、あれだけ見るないうたのに、見たな。
わしは、伯母が峰に棲んでた猪笹王の幽霊や。
侍に撃たれて無念でならん」いうねんて。ほんでな、
「あの侍の犬と鉄砲を手に入れてくれ」て頼むねんて。
主人、そんなことようせんかった。
そしたら猪笹王の幽霊は一本足の鬼になって、
伯母が峰を通る人を襲うようになってんて。



それからしばらくして、ひとりのお坊さんが伯母が峰にお地蔵さんをまつって、
お経を埋めて経塚を作り、鬼を封じ込めたんやて。
それで旅人が通れるようなってん。
けどな、お坊さんは、
「毎年十二月二十日だけはおまえの好きにせえ」て鬼にいわはってん。

そやから「果ての二十日」いうて、この日は伯母が峰の厄日や。
この日は伯母が峰通ったら鬼に食われるいうねん。
ほんで、その晩に限って、猪笹王を撃った鉄砲が、
どうもせんのに汗をかくんやて。
その鉄砲は天ヶ瀬の祠に納めてあるいうことや。

原話:高田十郎『大和の伝説』
再話:村上 郁   不許転載