竹原BLOG:奈良民話祭り ― グリム童話・メルヘン・語りの文化 とっておきの話。 

夏の奈良民話祭り:8月5日(金)午後3時より奈良町物語館で4回公演!
奈良燈花会に行きがてら、ぜひ来てくださいね!

吉野の民話「蛙になった人間」

2010年05月28日 | 日記
前回はおはなし交流会の報告をしましたが、
今日はその時話された民話をひとつ紹介しましょう!

奈良県というのは、この奈良市は北のはしで、南半分は吉野の山です。
大台ケ原など高い山々が連なっていて、その中の一つ大峰山は、
役の行者が開かれた山伏の修験道の山です。
今でも女人禁制を守っていて、男の人しか登られません。
ですから、男たる者、
いっぺんは大峰山に登るのがならわしになってるところもあるそうです。
その大峰山にまつわるおはなしです。

蛙になった人間

大峰山の山道は奥へ行くほど、どんどん険しくなる。
その上、修行の場がいくつもあって、
その一つに「西ののぞき」というこわい場所があるねん。
体にひもをかけられて、崖の上に腹ばいになる。
山伏がひもを持って、崖から体を半分以上も外に出して下をのぞかせ、
体をゆすぶりながら「親孝行すっか」とか聞かはるねん。
みんなこわくてこわくてふるえながら、
「はい、します。します。」と、すなおに答えるそうや。

昔、ある時ひとりの男が
「こんなけわしい所で話を聞いてもしょうがない。
ご利益なんかないぞ。しんどいだけや。」とか、
いろいろいやがらせをいうて、他のお参りの人たちのじゃまをしてたんやて。
ほしたら、のぞきの崖で足をすべらせて断崖絶壁の崖下に落ちてしもうたんや。
男は運のええことに命は助かったんやけど、
今のようにヘリコプターも何もない頃やから、
だれも助けに行くことができへん。男は声を限りに泣きさけんだ。
お寺のお坊さんたちは相談しはってなぁ。
「おまえ、これから真人間になるか。」と男に聞かはってん。
「はい、真人間になります、なります。どうぞお助け下さい。」
「だがなぁ、人間のままではどうにもならん。蛙の姿にして助けてやろう。」
お坊さんたちは、数珠をさらさらと押しもんで、男を蛙に変えはったんや。
蛙になった男は、崖をぴょんぴょんはねてのぼっていき助かったんや。
せやけど、もとの人間の姿にもどすのには、かなりの修行をせねばならん。
それで、蛙を吉野の蔵王堂へ連れて行って、
吉野全山のお坊さんを呼び集め、みんなでとうとうとお経をあげ、



やっとのことで、もとの人間にかえすことができた。
男はそれから真人間に生まれ変わったということや。

この伝説によって、
毎年七月七日に蔵王堂で「蛙とび」の行事が行われるようになったんやて。

奈良の民話を語りつぐ会
なら・語りの講座 II (講師:村上郁) 
再話:舩津 喜美子 不許転載