えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・星明りのドラム缶

2020年01月01日 | コラム
 強かった風は夜になると静まった。二〇一九年を守った破魔矢やお守りや注連縄を詰めた紙袋が、竹を四つに立てた結界の隅に積み重なる。保存会の法被を着た壮年の男たちが懐手をして次の年に切り替わるのを待っていた。その間に炎がちろちろと燃えている。昨年までは積み重なった紙袋がごうごうと燃えていたのだが、今年の炎はドラム缶の中へちんまりと納まっていた。
 鳥居の傍にはだんごの屋台と甘栗の屋台が並びこうこうと光をともしている。俵に突き刺さった平たいだんごが白く夜に浮いているようだった。今年はドラム缶なんだね、屋台なんだね、と列に並ぶ人々が喋っていた。風のない夜は寒さも浅く思い出せば吐く息も透明で、炎があがっているドラム缶にも子どもが物珍しそうに散らばるばかりで、ダウンジャケットに身をくるんだ人々は凍えることもなくスマホを素手でいじりながら薄っすら騒いでいた。除夜の鐘が近くの寺から響き、後ろの国道を消防車と救急車がサイレンを鳴らして走り去っていく。振り返ると列は続いてスマホのライトが下から人々の顔を青白く照らしていた。それだけ今年の冬は暖かいのだろう。
 列が動き出し、社殿の鈴はひっきりなしに鳴る。文化財の本殿をかばいこむ鉄筋性のコンクリートの社殿には明かりがともり、本殿の開かれた扉の奥ではご神鏡がこちらを見下ろしている。すぐ前に並んでいたミルクティー色のトイプードルを抱えていた男性がお参りをせず脇へ退いたので、家族三人で並び鈴を鳴らして初詣を済ませた。
 ドラム缶へ法被の男たちが、紙袋から中身を取り出して丁寧にくべていた。竹や生木の枝がはじける音は変わらず高い。参拝を済ませてダウンコートのポケットを探ると、昨年の「福銭」の袋が手に当たった。ドラム缶の前でお神酒と共に新しい福銭を受け取ったあと、お願いします、と紙の袋を法被の男に渡した。男はあいよ、と勢いよく返事をして、それを火にくべた。ちらりと炎を上げてそれは燃え尽き、火の粉をドラム缶のふちにこぼして消えた。

 待たれていた二〇二〇年という年になりました。本年をいかような年にするかは人次第、望まれる文章も人次第に世間次第、大きなイベントを控えていても私という体は歳を取り歳に併せて徐々にだれかの姿へ近づいていきます。そうした外側の変わり方と、内側の皮割り方と、それが一つに釣り合うような成長の一年になりますよう。また、これを読んでいただいている人間の皆様にも、良いお歳でありますことを願っております。
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