【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

台風のニュース

2019-10-04 06:42:26 | Weblog

台風のニュース
 台風が日本を直撃した場合にはニュースの画面に「こんなに風が吹いています」「こんなに強い雨が降っています」というレポートが流れます。台湾とか中国とか朝鮮半島の場合には地図が出るだけです。だけどそこでも台風の被害は受けているわけで、「ここでも台風が暴れています」のニュース画面を現地から分けてもらって流したら“臨場感"が増すのではないでしょうか。

【ただいま読書中】『核は暴走する(上) ──アメリカ核開発と安全性をめぐる闘い』エリック・シュローサー 著、 布施由紀子 訳、 河出書房新社、2018年、3900円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4309253857/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4309253857&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=9620c2b051768e6fbd195ef39a6cdf4d
 著者は「アメリカで行われた、核兵器を管理する努力(事故・過失・その他いかなる非正規の手段によっても、起爆することがないようにする努力)について述べた本である」と冒頭で宣言します。
 ミサイルサイロの中の核ミサイルは、危険な存在でした。もちろん弾頭の核爆弾は危険です。しかし、燃料のエアロジン50は漏れると人体に有毒で自然発火しやすく、酸化剤の四酸化二窒素は沸点は摂氏21.5度でこれまた人体にはひどく有毒で自然発火しやすい毒物です。そして、それらが漏れたら、サイロ内は火災が起きた密室か毒ガス室になってしまうのです。これは単なる「可能性」ではなくて、実際にそのような事故が起きています。
 実際のミサイルからの燃料漏れの事故では、対応マニュアルはなく、急ごしらえの対応チームが、情報がほとんどない中で、必要そうなものをかき集めて出動しました。熱血漢の有志(勇士)たちのボランティアです。空軍基地では、事故そのものの対応よりも、マスコミ対策と周辺の住民からの訴訟に備えての準備を第一に行っています。燃料が漏れただけで、まだ爆発も火災も起きていないし死傷者もいないから、大したことはない、という判断だったのでしょう(完全に、リスクを過小評価する認知バイアスがかかっていますが)。さらに、現場を見た責任者が「こうしたらミサイルが救える(しなければ核ミサイルが破壊される)」と提案をしたのに対して、戦略空軍司令部は「何もするな」と命令します。これから対応マニュアルを作る、と。しかし、現場を見た人間の判断に対して、現場を知らない人間の判断の方が優越するのは、なんとももどかしいものです。司令部にいるのは、過剰なまでの自信と自立心が旺盛な「優秀な軍人」でした。難点は、その人が戦略ミサイルやサイロの構造などについて無知で、専門家のアドバイスを仰がなければきちんとした決断ができなかったことです。実は、一番の「専門家」は現場にいました。しかし彼らに「どうしたらよいか」を尋ねる人はいませんでした。インテリの人たちは、階級が下の兵士はみな無知蒙昧だ、とでも思っていたのでしょうか。
 ミサイルサイロの事故と平行して、アメリカの核兵器がどのように進歩したのかの歴史も語られますが、これがけっこう面白い。最初の原爆は完全に「手作り」で、本当に爆発するかどうかさえ誰も確信できなかった、どころか、Bー29からきちんと投下できるかどうかも怪しい代物だったそうです。やがて水爆が開発されると、この爆発によって地球の大気が“発火"してしまうのではないか、という疑いがあったそうです。ソ連が長距離爆撃機を開発すると、アメリカの政治家や軍人は「ソ連によるアメリカの爆撃」を本気で心配します。そこで持ち出されたのが「対空兵器としての水爆」。ソ連の爆撃機の編隊に対してアメリカかカナダの上空で水爆ミサイルを爆発させて迎撃する、というアイデアです。確かに爆撃機は蒸発するでしょうが、その“下"もひどいことになりません? さらに、爆撃機がきちんと編隊を作ってくれていたらよいですよ。ばらばらに侵入してきたらどうする気だったのだろう? 数を増やして対応、ということだったのでしょうけれど。
 核兵器を米国内だけに配置してたら、先制攻撃で全滅もあり得ます。だったら世界各地に散らして配置しましょう。ところが、散らせば散らすほど「事故」の可能性が増えます。というか、実際にいろんな事故が起きました。核爆発が起きなかったのが不思議、という事故もあります。軍は「国内で核兵器が爆発する“事故"」が自然災害よりも低い確率だったら国民に許容されるだろう、と考えますが、そういった考え方を厳しく批判する研究もありました。
 そして、スプートニクの成功。これは、大陸間弾道ミサイル時代の到来をも意味していました。アメリカも急遽ロケット開発を急ぎますが、失敗の連続。そこで、爆撃機を常に空中に配置しておいて、もしソ連が攻撃してきたら(それで本国がやられるにしても)報復ができる(だから抑止になる)という「滞空警戒戦術」を採用しました。しかしこれは「スイッチを入れられた核兵器」が常に多数臨戦態勢にあるわけで、そのぶん事故の確率は増していました。墜落、火災、人為的な操作でも核爆発が起き得るのです。
 1958年1月モロッコでは、水素爆弾を搭載したB47爆撃機が滑走路で火災を起こし、爆発はしなかったものの、あたりをプルトニウムで盛大に汚染しました。同年、サウスカロライナ州でB47がうっかり原爆を落っことしてしまいます。核爆発はしなかったけれど、高性能爆薬は爆発し、家を一軒破壊しました。ソ連がこれをプロパガンダに利用しないわけがなく、偶発的な核戦争を怖れた人々によって世界で反核運動が起きます。そこで米空軍は文書から「フェイル・セーフ」という言葉を削除し「積極的制御」を採用しました。この方がイメージがよい、と。これが「事故対策」です。