【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

プロ選手

2016-01-28 06:57:45 | Weblog

 公営ギャンブルには“格差”があるように私には感じられます。たとえば競馬は昔からテレビで盛んに取り上げられますし武豊騎手が年間賞金1億円を越えたときにはまるで英雄扱いでした。競輪の中野浩一選手の方が先に年間1億を突破したはずですが、その時には「強くてたくさん稼ぐ選手」扱いだったと私は記憶しています。
 そういえば競輪やオートレースで一般マスコミでふだんから扱われる有名な選手って、いましたっけ?

【ただいま読書中】『おたまじゃくしの降る町で』八束澄子 著、 講談社、2010年、1300円(税別)

 何もない田舎町。そこに突然オタマジャクシが大量に降り大騒ぎになります。次に降ったのは小魚。そして竜巻が襲来。
 おっと、そういったパニックものではありません。その町に住む中学生の物語です。中心になるのは、保育園以来の付き合いのハル(ソフトボール部、14歳)とリュウセイ(ラグビー部、同じく14歳)。二人は付き合っているという噂がありますが、それを聞いたらリュウセイはとっても嬉しそうな顔をするしハルは容赦なく否定します。だけど本書は、二人の“恋”をめぐる爽やかな青春ものとか学園ものでもありません。
 ハルは、口では不平を言いますが、実は家族関係では“満たされて”います。昨年お祖父ちゃんが亡くなりましたが、そのために「心にお祖父ちゃんの形」の隙間がぽっこりできたのを感じることができるくらいに満たされているのです(欠落を感じる、ということは、その分満たされていることを意味します)。しかしリュウセイはシングルマザーの子です(しかも父親をリュウセイを含めて町内では誰も知りません)。家族関係の重要な部分が最初から欠落しています。これは田舎町では非常に辛い立場です。いや、もちろん都会でも辛い立場ではあるのですが、濃密な人間関係が前提の田舎町では、そういった辛い立場の人を温かく見守る人よりは容赦なくつつきあげる人の方が多いのです(私もそういったものは見聞した経験があります)。ハルはリュウセイを“保護”しようとして、だけど思春期ですから男女の間の感情に対する反発と恐れと憧れもあって、とっても複雑な気分です。おっと、幼い性欲もありました。それと、ソフトボール部の同性への思慕の念も。
 リュウセイとハルは、それなりに上手く付き合っています。それは、二人がまったく違うタイプの人間であることによるのですが、「大きな部分が欠落している」リュウセイが、自分の「欠落」を「他人を責めること」で埋めようとはしない基本態度であることも大きいでしょう。リュウセイは真っ直ぐに生きているのです。しかし世の中はそんな人ばかりではありません。「満たされているハル(しかも自分が満たされていることに無自覚)」に対して激しい反発を感じる人が、ハルをいじめのターゲットにします。耐えきれずハルはソフトボール部を退部してしまいます。しかし……
 ラグビー部のリュウセイがことばでは常に直球勝負なのが笑えます。ラグビーは楕円球だろう、と。対して、リュウセイにだけはぽんぽん心にもないことを言えるハルは、対人関係の基本は完全にキャッチャータイプです。自分を主張するよりも他者を気遣い、相手の言葉をとりあえず受け止めてしまいます。だけど「受け止める」ことに限界が来たとき、ハルは一度崩れ、そして大きく成長することになります。一夏で身長もぐっと(夏休み中だけで8cmも)伸びましたけれどね。
 ともかく、汗臭く小便臭い青春ものです。本書に描かれているのは、私が中学生をやっていたときから何世代かあとの時代だろうとは思いますが、それでも彼らの生活はとっても懐かしく感じます。もう一度中学生に戻りたいかと問われたら、たぶん断りますが、でもやっぱり懐かしいなあ。