自然数は無限に存在します(もし「最大の自然数」が存在するとしたら、それに1を足したものは存在しないことになってしまいますが、それは変です)。同じく素数も無限に存在します。
ところで、素数は自然数の中にまばらに存在している、つまり「素数の数」は「自然数の数」より少ない。ところがどちらも「無限」に存在しています。ということは「小さな無限」と「大きな無限」が存在するということに? だけど「無限」は「無限」ですよねえ。
【ただいま読書中】『算数宇宙の冒険』川端裕人 著、 実業之日本社、2009年、1500円(税別)
受験一色のクラスで“浮いて”いる小学6年生の3人組は、街のミステリーゾーン探検に夢中です。だけど神社で、本当にミステリアスな出来事に出くわしてしまいました。「算数宇宙杯に出られますように」という願いや不思議な算数の問題が書かれた絵馬、三ツ眼の兎、不思議な電話、そして、不思議な転校生。
7年に一度の算数宇宙杯の遺題は「ゼータ関数」。なんと、リーマンですか。小学生が?
ともあれ小学生にも理解できるように、というか、頭のよい小学生なら理解できそうにかみ砕いて、指数や対数では掛け算が足し算に変換可能であることが教えられ、そこから一気にゼータ関数とオイラー積でも同様に掛け算が足し算に変換可能になることが示されます。ここですとんと「ユーレカ!」とか「アハ!」と叫べたら、その人は「算数」から「数学」の世界にジャンプインできたことになるのでしょう。ある意味、数学というのは「感覚」で捉える部分がある、と私は思っていますので、ここでのアハ体験は重要だと思っているのです。
別件ですが、本書を読んでいて私は別の意味で驚くことがありました。同時進行で読んでいた『古楽の音律』と密接に関係ある「音階(和音)」の話がこちらでも登場したのです。いやあ、おそるべし、ピタゴラスさん。
なお、3人組は、数学の天才少女、凄腕のヴァイオリン演奏少年、そして、なぜか何の取り柄もない平凡な少年の組み合わせで、主人公は最後の少年、空良(そら)くんです。どうして空良くんがそんな重要な役割(算数宇宙杯に出場、本書の主人公)を割り当てられたのか、不思議ですねえ。
ともかく、あまり算数が得意ではない空良くんに対してわかりやすくゼータ関数についてかみくだいて教育する、という形で本書のストーリーは進展します。小学生がゼータ関数について解明を試みる、というのはとんでもなく飛んでいる設定ですが、その設定のおかげで本書はリーマン予想の解明についてのとってもよろしい入門書となっています。『素数の音楽』(マーカス・デュ・ソートイ)はリーマン予想に関する非常にわかりやすい解説本ですが、あれを読む前に本書で“予習”をしておくと良いかも知れません。
しかし謎の転校生は明らかに地球人ではありません。本人もそのことを隠す気はないようですが、それで良いのかなあ? そして、宇宙人と関孝和が平気で共存するこの世界は、奇妙を通り越して、もう一読、笑っちゃうしかありません。
空良くんは、様々な状況や人物や宇宙人に振り回され、「君には算数を理解することは期待しない」なんてことを言われながら、算数宇宙杯のために算法宇宙の中をさ迷います。彼の“武器”は、爺ちゃんに食べさせてもらった鮨の記憶と歌の能力。これでゼータ関数の解法に挑むのです。さらに、非協力的なライバルとともにこの宇宙の滅亡を予防しなければなりません。
いやあ、真面目なのかハチャメチャなのかわからない“冒険もの”でした。楽しめたから良いんですけどね。