【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

南は熱い

2016-01-07 06:44:40 | Weblog

 大航海時代の前、ヨーロッパから南下すると気温も水温も上昇することは知られていました。そのグラフを延長したら、もっと南ではもっと暑く(熱く)なりそうです。最後には海は沸騰しているに違いありません。いやあ、きわめて“論理的”な迷信です。
 ただ、私は昔の人を笑えません。もしかしたら21世紀の人間も、それに近い“論理的な迷信”を信じているかもしれませんから。

【ただいま読書中】『ジゴロとジゴレット ──モーム傑作選』サマセット・モーム 著、 金原瑞人 訳、 新潮文庫、2015年、630円(税別)

目次:「アンティーブの三人の太った女」「征服されざる者」「キジバトのような声」「マウントドラーゴ卿」「良心の問題」「サナトリウム」「ジェイン」「ジゴロとジゴレット」

 モームと言えば、人間観察の鋭さとシニカルで意外性に満ちたストーリー展開、そしてユーモア、と私は思っていました。そして冒頭の「アンティーブの三人の太った女」でその思いは裏切られません。“モーム節”全開です。ところがその次の「征服されざる者」で私はぎょっとします。ドイツ兵が占領下のフランスで地元の娘を強姦するシーンから始まり、娘の妊娠、いつの間にかその娘を愛してしまいその農園に通い続けるドイツ兵、少しずつ態度に変化を見せる両親、頑なに拒絶し続ける娘、そして出産。最後まで話は緊張感を保ったまま走り続け、強烈なエンディングを迎えます。ユーモアはかけらも登場しません。モームのことを20世紀前半(特に第一次世界大戦後)の作家、となんとなく思っていた私にとって、第二次世界大戦が題材であることも合わせて、本作は意外な作品でした。
 「サナトリウム」では、アシェンデンが登場します。『アシェンデン』のアシェンデン? この『アシェンデン』も、初めて読んだときには『月と6ペンス』と同じ著者の作品か?とびっくりした覚えがあります。たしかあの本には「サナトリウム」は登場しなかったような記憶はあるのですが『アシェンデン』の内容はほとんど忘れているので、確認のために再読しなくてはいけません。さて……いつもの「本箱のどこにあるだろう?」ですが、またまた図書館に頼ることにします。ただ、年末年始の休み(私の休みではなくて、図書館の長期休館)に備えて何冊もまとめて借りた本がまだ残っているので、これを片付けてから、ということになりそうです。
 しかしどの作品でも著者は精緻に人の行動や心理を描写しますが、ぎりぎりのところ、特に動機の所は読者のために手つかずにして残しておいてくれます。だからいろいろな想像ができて本当に楽しめます。人間模様って、面白いものだと思わせてくれる本です。