かつて天気予報で「小型だが強力な台風」という表現がありました。「小型」をは暴風圏が小さいという意味で「強力」は暴風がすごい、という意味です。すると「強力」ということばも「風速」や「気圧」のデータも無視して「小型」という文字列にだけに注目し「小型だから安心だと思った」と避難や対策をしない(あるいは、「何もしなかったことの言い訳」として「小型」に責任をなすりつける)人々が続出し、気象庁は台風に関して「小型」を禁句にしました。それでも「天気予報はどうせ外れると思った」と避難行動をしない人がいましたが。
現在「警報」や「注意報」は市町村単位で出されていますが、それを越える広域(県レベル)に数十年に一度くらいのとんでもない天候被害が出そうなときに「特別警報」を出すことになりました。ところが今年からそれを運用し始めたら、「警報」が出ているのにそれを無視して「特別警報が出ないから安心だと思った」と主張したり逆に「特別警報が出たのに自分のところの市町村は何も大きな被害がなかったじゃないか。予報が外れている」と文句を言ったりする動きが出てきています。こんどは気象庁は何を禁句にすれば良いんでしょうねえ。
【ただいま読書中】『3Dプリンター革命』水野操 著、 ジャムハウス、2013年、1500円(税別)
最近急に取り上げられるようになった3Dプリンターという「モノ」とそれを取り巻く「環境」とについて触れた本です。
「立体造形」は大まかに4つの方法で行われます。1)切削加工 2)塑性変形(板金加工など) 3)鋳物/射出成形 4)材料を積み重ねる(粘土など)
3Dプリンターはこの4)を使っています。0.2~0.05mmの薄い層を積み重ねて立体を作り出します。形が複雑でも単純でも加工時間がほとんど変わらないのが大きな特徴です。
機械の方式は、1)熱溶解樹脂積層法(ワイヤー状のABSまたはPLAという樹脂を高温のヘッドで溶かしながら積み重ねる) 2)インクジェット(光硬化性の液状樹脂を吹き付けて紫外線で硬化させる) 3)光造形(光硬化性の樹脂のプールに造形台を沈めながらその上にレーザー光線を当てて固めていく) 4)粉末焼結(粉末樹脂をレーザーで焼結する) 5)石膏粉末を樹脂で固める
それぞれのやり方にそれぞれの利点や欠点があります。
ただし、機械があればそれで造形が始められるわけではありません。「どのような形のものが欲しいか」の3Dデータを準備する必要があります。
3Dデータを作成するツールには「3DCAD」と「3DCG」があります。CADは形状を数式で表現し、CGは三角形や四角形のポリゴンで表現するという違いがあります。
データファイルは3Dプリンターに読み取らせるために専用のファイル形式(一般的にはSTL形式)に変換する必要があります。
さあ、これでいよいよ造形ですが、個人で3Dプリンターを購入しなくても、出力サービスもあります。ネット経由でデータを送って業者のところの3Dプリンターで作ってもらうわけ。そうしたら、高いものでは数百万円のプリンターを買わずにすみます。なんだかずいぶん“お手軽”な気がしてきました。
出来上がった“製品”には「お手軽」「出来が少々荒っぽい(壊れやすい、変形しやすい、表面がザラザラのことがある)」という特徴があります。ということで、現在3Dプリンターの一番の使用目的は「試作」となっています。とりあえず作ってみて実際にどんなものか試してみる、というわけです。金型などが不要ですから、産業界では大喜びでしょう。
身近でわかりやすい「3Dデータ」といえば、等高線があります。大震災後の再開発でも、土地の3Dモデルで住民の理解が進んだ、という例があるそうです。
最終製品に結びつく例としては「ジュエリー」。精細なモデルを出力し、それをロストワックスで型としてそこに金属を流し込むことで「製品」とする方法です。また、シルバーなど数種類の金属を使って出力をする方法もあります。この場合には3Dプリンターから直接製品が生み出されるわけです。フィギュアや医療での例も紹介されます。
教育も有望な分野です。オバマ大統領が学校に3Dプリンターを配布する計画の話をしています。日本は……政府は何を考えているんでしょうねえ?
著者は実際にiPhoneのカバーを製作してみました。自分好みのモノが“手軽”に作れるというのは、たしかに魅力です。ただし材質などに何を選択するかは自己責任なので、よほど勉強しておく必要がありますが。
「こんなものがあれば良いのになあ」「じゃあ、ちょっと作ってみようか」の時代が、もう目の前です。