輸入ギター、特に銘器と呼ばれるハウザーやロマニロスは新作なのに何故こんなに高いのですか?と言う質問をよく受けます。確かに日本人製作家の場合は最高でも100万円ですよね。先日、ギターの価格は材料のグレードで決まると言いましたが、それでは300万円するギターは日本製最高の100万円より3倍もいい材料を使っているのでしょうか?それは違いますよね。寧ろ日本人製作家の方がいい材料を使っている場合があります。
また、300万円のギターは100万円の3倍いい音がするのしょうか?それも違いますよね。
答えは簡単です。需要と供給のバランスで価格は決まっているのです。
例えば70年代初頭にジュリアン・ブリームがホセ・ロマニロスと言うギターを使い始めた途端にロマニロスは世界中に知れ渡り、価格が高騰しました。つまり、世界中から注文が入って製作が追いつかなくなり値段が上がった訳です。ラミレスやフレタ、ハウザーもセゴビアが使って有名になり、世界中から製作依頼が入ると何年も待たないと入手できない時代がありました。
1975年にスペインに行ったとき、パウリーノ・ベルナベの工房に行って注文したら7年待ちと言われました。当時はイエペスがベルナベの10弦ギターを使っていましたので、尊敬するイエペス先生が使っているベルナベが欲しくて注文台帳に名前と住所を書いてきました。
こう言った銘器と呼ばれるギターは製作本数も限られています。年間で10数本でしょう。中には年間に10本に満たない製作家もいます。1本1本、材料を吟味して、その材料の性質にあった板の厚みや響棒の削り具合、塗装の厚さも含め、細やかな配慮をしながら作ると本数は自ずと限られてきます。日本人製作家にも年間製作本数が10数本と言う人が居ます。例えば仙台の三浦さんです。彼曰く、一度に平行して製作出来るのは2本まで。3本以上同時進行すると1本1本に細やかな目配りが出来なくなるそうです。従って三浦さんのギターは100万円のモデルに限定して直売しかされていません。卸販売出来るほどの本数が作れないんですね。従って楽器店には並んでいません。唯一ミューズだけがショールームとして楽器をお預かりしています。
しかし、最終的には楽器の命は音です。銘器と呼ばれる楽器はどこか違う、音に芯や品があったり、粘りがあったり、どことなく魅力的な音色だったり、響きが違ったりするんですね。そして60年代、70年代のI世、II世の作品が随分と高値で取引されていますよね。これは既に製作家がこの世に居ないのでもう新作が出て来ない、年数が経っていて良い音になってきているなどの理由で高くなっています。これも需要と供給のアンバランスに起因するものですが、投資目的で取引される事もあり価格高騰に拍車をかけています。10年ほど前からのアメリカが正にそれで、この10年はアメリカがクラシックギターの価格相場を上げているとも言えます。事の発端はエレキギター、フォークギターのビンテージものです。今やエレキやフォークのビンテージものは数百万円で取引されています。中には10万ドルを越えるものまで出ています。アメリカのギターセンターと言う最大のチェーン店の幹部が日本にクラシックギターの買出しに来た事もあります。
以上、今まで皆さんが疑問に思われる様な事を中心に総論めいたお話をしてきました。次回から具体的に実際選定する時の注意点などをお話します。
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表板の木目にある独特の紋様とは「ふ」の事でしょうか?英語でベア・クロー(熊の爪)と言うものですが、これは木が成長する時に気候の変化で出来るものです。この「ふ」は他の部分より硬い性質を持っているので、ある製作家は「自然の力木」と言うほどで、より絞まったクリアな音になり、丈夫な筈です。
全体に満遍なく入っている材は珍しく珍重されています。所々に散見される場合や1~2箇所しか入っていない場合は、知識のないユーザーから「節・ふし」が入っていると敬遠されますが、大きな間違いです。
YASUさんのハウザーは湿度が高い方がよく鳴るとのことですが、一般的には反対の現象ですね。一般的には乾燥しているほうが鳴りがよくなるはずですが・・・。