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<あれも聴きたい、これも聴きたい> SP、LP、モノラル、ステレオ、そしてCD
現在は音楽を聴くというとほとんどCDのことを指す。言葉では「レコードを聴く」ということもあるが、実態はCDをまたはDVDやSACDのことを言っている。従って、今世界で活躍しているギタリストの演奏は、ほとんどと言ってよいほどCDやDVDで聴くことになる。しかし若いギタリストなら当然であるが、セゴヴィアや最近ではリョベートやレヒーノ・サインス・デ・ラマーサ、マリア・ルイサ。アニードといった古き時代のギタリストの演奏すら、今ではCDで聴くことが当然のことのように感じておられるのではないだろうか。
しかし、リョベートやデ・ラ・マーサ、セゴヴィアの全盛期などは、CDの前のレコード(LP-ロング・プレイ)のそのまた前、SP(78回転)の時代であった。もちろんステレオなんぞは存在せずモノラルで、オーディオと言ってもスピーカーは1つであった。当時最高峰のスピーカーといえば、英国タンノイ社の「オートグラフ」というもので、巨大で、しかも部屋のコーナーにセッティングすべく、背面が90度で尖った形をしていた。そのようにして、モノラル1本のスピーカーで、なんとか演奏会場や劇場、映画館といった大きなホールの響きを部屋で再現しようとしていた時代であった。
以前そのオートグラフの完全復刻版が製品化されたことがあって、価格を見たら、1本500万円を越していた。当然現在ではそれをステレオで使用するわけであるから、2本だと何と1000万円を越すことになる。そんなスピーカーを誰が購入するんだろうとやっかみ半分で考えてしまうが、売り出すところを見ればやはりどこかに購入する人もいるのであろう。
私の若い頃は、まさかそのSPの時代ではなく、既にLPの時代にはなっていたが、それでもなんと現在も現役で、しかも世界のトップで衰えをまったく知らず活躍中のイギリスのジョン・ウィリアムスのデビューレコードは、彼が17歳の時に録音したもので、2枚同時に発売されたモノラルレコードであった。
今はCDにもなっており、手にいれることは可能なのでぜひ皆さんも聴いてみていただきたいが、驚くほど現在のジョン・ウィアリアムスの演奏と変わらず、既に大家の風格を備えており、入っている音も充分鑑賞に堪えられるものだ。技術的にはその時既に完成の域に達しており、ミスをすることなど想像すらできないほど完璧な演奏をしている。
ジョン・ウィリアムスがそうであるから尚更であるが、ジュリアン・ブリームなんぞは、当然モノラル録音のLPであった。しかも彼の場合、その後と随分印象が違って、非常に真面目で真摯な演奏をしてはいるが、ちょっと面白味に欠けるというか、悪い言い方をしてしまうと、聴く人によっては「凡庸な演奏」とも聞こえかねないような演奏とも言える。(しかし、その時のブリームの演奏をこよなく愛して止まない人も沢山いて、あまり変なことを言うと闇夜が危なくなってしまうので、この辺で止めるが)
世の中がステレオの時代となり、ブリームが来日をしたころ発売されたレコードを持っているが、まだその後のブリームの演奏とは大きく隔たっており、どちらかというと、まだ「まじめーな演奏」という印象が強い。
いずれにしても、このようにジョンやブリームにしても、初期はまだLPレコードの時代で、しかもモノラルだったのだ。
それではそれからずーと時代は下って、我らが日本の現役も現役、バリバリに活躍中の福田進一さんなんかはどうかというと、彼の録音も当時はLPレコードであり、少なくともLPと当時出始めたCDとの併売であった。
私はその福田進一さんの「祈祷と踊り」と題した、大変若いころのLPを持っているが、それを見てみると、録音は1985年9月とある。グラナドスの詩的ワルツ集やらテデスコのソナタなど大曲ばかりのレコードで、私はこのレコードを聴いた時に、初めて外人ギタリストでなくともしっかりした音楽が聴ける時代が来たと、いたく感動した覚えがある。
勿論、福田さんの場合、その前に出されている録音も、レコードではなくCDで持っているので、もうその頃はLPとCDが大概は併売されていたんだと思うが、それにして1985年といえば20年そこそこ前のことだ。そう考えると当然ジョンやブリームの初期はモノラルであろうし、セゴヴィアも後期はステレオLPだが、初期のころはほとんどモノラルであり、しかもSPの時代であったのだ。
かくのごとく私達は、芸術家が貴重な仕事の足跡を残す「記録-レコード」という意味で、音楽史上まれに見る大変革の時代をリアルタイムで経験していることになる。
そういった古い時代の天才ギタリスト達の貴重な演奏記録が、最近のデジタル技術によって大変きれいにノイズが除かれ、とても良い音で現代のオーディオセットで聴けるようになってきている。
私も、昔何度も聴いたそういったレコードがCDで復刻されたり、知らなかった音源を見つけてくれてCDにしてくれたりして、どんどんと新しい技術の恩恵に浴しているが、そんなものを聴くにつけ、そんなに長い年月ではないんだと、最近は感慨を深くしている。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)
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