消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

本山美彦 福井日記 81 円キャリー取引の弊害

2007-03-17 16:58:33 | 金融の倫理(福井日記)

 円借り取引」という金融取引がある。「円キャリー取引」とも呼ばれている。

  低金利状態にある円を、その低金利で借りて、そうして調達した円資金を、円貸付よりも、より高い利回りを期待できる外国の通貨や株式、再建などに投資して利鞘を稼ぐ取引が、このように呼ばれている。現在の規模は20兆円程度ではないかと言われている。世界の株式の時価総額が6000兆円あると推定されている規模に比べれば、わずか(言葉の怖さ)20兆円しかない円キャリー取引は、株価形成に大した影響を与えるものではないと投資家には意識されている。

 日本経済新聞』(平成19年3月14日付)が、この取引を紹介している。円キャリー取引が、平成19年3月中旬に急激に進行した世界的な株価安と円高を生んだのではないかとの観測を意識して書かれたものである。
 
 この取引の残高が、17.7-23.6兆円(1ドル=118円)であると推定したのは、ドイツ銀行グループであった。シティグループも10-20兆円と試算している。海外のヘッジファンドがこの取引を行っている。一日に数10兆円が動いているのではないかと言われている。

 平成19年2月から、世界的に株価安・円高が進んだ背景には、この取引があるのではないかと観測されている。

 これまで、金利の安い円を借りて、ファンドは積極的に海外に投資していた。海外だけではなく、日本国内にも投資していた。円が他の通貨に転換されるのであるから、円安、そして、他国や日本の株式市場に投資されるのであるから、世界的な株高が進行していた。

 しかし、最近の日本の超低金利是正によって、ファンドは借り入れていた円を返済するようになった。つまり、他の通貨から円への転換運動が大規模に生じた。これが円高を生み出した可能性は否定されないのではないか。

 例えば、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の通貨先物取引が、そうした動きを表している。円高・株価安が始まったのは、平成19年2月27日であった。この日の円相場は、1ドル=120円台であった。それが、平成19年3月6日には、115円台と急上昇した。この間の円売り・ドル買い額は、半減した。

 つまり、それまでは、円をドルに替えるべく、円売り・ドル買いが大規模に進行し、それが円安・ドル高を生み出していた。ところが、こんも期間、その規模が半減したのである。円の対ドル売り越し幅が、約11万4600枚(1枚=1250万円)から約6万2900万枚に半減したのである。

 借り入れていた円をドルに替えて世界の株式に投資していたことが、円安・世界的株価高を作り出していたのに、円金利の上昇・米国景気への懸念から、そうした円キャリー取引を解消する動きにファンドが転換するや否や、円高・世界的株安というトレンドができてしまったというシナリオが、囁かれているのである。

 真相は不明である。
 しかし、少なくとも一日に数10兆円もの円キャリー取引が行われていたことは確かである。実需に直結しない膨大な資金が、手を換え、品を替えて世界中に跳梁跋扈している。そうした力が実態経済に巨大な影響を与えているのであって、その逆ではないということに、金融の一人歩き現象の恐ろしさが表現されているのである。

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