消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

ノーと言えない日本から、自立する日本へ――沖縄に思う 3

2006-08-16 15:36:50 | 世界と日本の今

 前回の続き

  金融自由化の陰謀

 

 素人つまり大衆相手の商売はもうかります。一生に一度の買い物といわれる住宅など、素人相手の消費財はとてももうかります。しかし、プロ相手の商売はもうかりません。たとえば製鉄や造船などは、巨大な図体の割にはもうかりません。顧客がトヨタなどのプロだからです。トヨタは世界中の鉄の価格を調査し、最低価格でしか買わない。そこそこのもうけしか許さない。しかし、なくてはならない産業です。

 

 長期の投資を必要とするこのような産業のための特別な銀行が、日本長期信用銀行日本興業銀行日本債券信用銀行でした。無記名にすることで、金持ちに長期の債券を買ってもらい、二十年とか三十年という長期の資金を、重厚長大の産業にまわしてきました。他方で、中小企業向けの融資には、地域密着型の信用組合や信用金庫があり、その監督は地元市町村にまかせました。最も力の強い都市銀行には一年以上の定期預金は認めないという具合に、それぞれの企業がバランスよく成長できるように、金融機関のすみ分けがありました。金融機関は一つも倒産しませんでした。第一勧銀富士銀行は世界一たくさんの預金を集め、一流銀行でした。

 

 ところが、アメリカが日本の金融市場でもうけるため、金融自由化を迫ってきた。バランスのとれたすみ分けは「護送船団」と批判された。自己資本比率の低い日本の銀行をねらい、金融機関の自己資本比率は八%以上というBIS規が決められた。銀行は「貸し渋り」「貸しはがし」に走り、中小零細企業は倒産に追い込まれた。「預金は借金だ」と言われ、預金をたくさん集めた銀行は三流銀行ということになった。

 

 もうからない産業に融資してきた長期信用銀行が、真っ先に血祭りに上げられた。破たんした長銀には政府の金が八兆円も投入され、負債が整理された。アメリカ政府の斡旋を受けた米投資会社リップルウッドが、それをわずか十億円で買った。しかも、長銀の債権が不良債権になれば、政府が弁償すると約束した。それが現在の新生銀行です。新生銀行はそごうなど多くの企業を倒産(不良債権化)させ、政府の弁償でぼろもうけした。十億円の元手で二千二百億円の利益を手にした。まさに「ハゲタカ・ファンド」です。

 

 日本長期信用銀行の破たんに始まって、二十一もあった都市銀行がわずか三つになりました。信用金庫、信用組合は多くが破たんさせられ、市町村から国の監督に移されました。銀行や信用金庫などへの不安をあおる世論操作によって、預金は郵便貯金に流れました。その郵便貯金をアメリカの金融会社が使えるように郵政民営化が行われました。これこそ陰謀だと思います。


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