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消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

本山美彦 福井日記 83  業績連動報酬批判

2007-03-19 23:02:13 | 金融の倫理(福井日記)

 平成19年1月7日、証券取引等監視委員会の勧告に基づき金融庁が、日興コーディアルグループの提出書類に虚偽記載があったとして、証券取引法違反の疑いで、同社に5億円の課徴金支払い命令を出した。平成17年3月期決算の内容が問題にされたのである。

 連結決算の仕方が問題にされたのである。平成16年4月、日興コーディアルの子会社、日興プリンシパル・インベストメンツ(NPI)が、さらにその子会社のNPIホールディングス(NPIH)コールセンター大手のベルシステム24を買収させた。

 その際、NPIHは、買収資金を得るために、EB債という債券をNPIに対して発行した。EB債とは、交換社債(Exchangeable Bond)のことで、他社の株券と交換できるものである。現金で償還するのではなく、他社の株券で償還するという債券である。そして、NPIHが発行したEB債は、買収対象のベルシステム24の株価に連動して価格が決まるという仕組みであった。そして、ベルシステム24の株価が上昇した。その結果、EB債をNPIHから買ったNPIは、利益を得た。

  しかし、売った側のNPHI は、ベルシステム24の株価が上昇した分だけ償還負担が増えるので、損失を抱えることになった。この2つの会社はともに、日興コーディアルグループなのだから、連結決算をすれば、NPIの利益は、NPIHの損失によって相殺され、グループとしては利益が出ないはずであった。

 ところが、日興コーディアルグループは、NPIを連結決算に加えたのに、NPIHは連結から外した。結果的に187億4900万円が過大利益として計上されたのである。あまりにも分かりやすい粉飾決算だったのではないのか。

 しかも、このEB債の評価を高めるべく、発行日を改竄した疑いもある。「株式会社日興コーディアルグループ特別調査委員会」による『調査報告書』(平成19年1月30日)によれば、EB債の発行決議が行われた日を、実際に行われた日ではなく、平成16年8月4日まで遡らせて、交換権行使価格を8月4日のベルシステム24の株価の終値である2万4480円にまで意図的に下げ、9月27日からTOBを実施して、9月末日の株価と交換権行使価格の差額によって算定される評価益を水増しした。

 さらに、ベルシステム24の株式を取得した直後である8月6日にEB債を発行した場合には、9月末までに株価が下落して、巨額の評価損を抱えるリスクがあった。9月下旬まで待ち、そうしたリスクは生じないだろうということが分かり、EBの発行日を後で、8月6日に仕立て上げた疑いがあると調査報告書は記している(同報告、17ページ)。

 日興の旧経営陣側は不正を否定していたが、証券取引等監査委員会が不正を認定、当時の有村純一社長らが引責辞任に追い込まれた。

 それだけではない、日興コーディアルグループは、こうして利益を過大に見せかけた虚偽の決算報告を背景に、平成17年11月、総額500億円の社債を発行した。利益が上がる会社という市場の信頼から、社債は、償還金利を安くしても売れた。

 虚偽の発表をして発行した有価証券の場合、発行額の100分の1が課徴金になるというのが証券取引法の規定である。日興の課徴金が5億円というのもそうした規定による。この虚偽報告については、町田徹氏が、すでに、平成18年2月号の『月刊現代』で指摘していた。

 ここで、問われるべきことは、虚偽報告はもちろんであるが、虚偽報告を行う誘惑に駆られる原因である。そもそも、会社には、実態よりも利益があるとの見せかけをする誘因と、実態よりも利益が上がっていないと見せかける誘因とがある。

 どちらの虚偽の誘因に会社が駆られるのかは、時々の事情による。これまでは、利益の上がった会社が、法人税を支払いたくないために、利益を隠すというのが粉飾決算の一般的な姿であった。

 しかし、近年の、粉飾決算の多くが、見せかけの過大利益を誇示している。ここに、問題の本質が横たわっている。利益が上がれば株価が上がる。株価が上がれば、他社を株式交換で吸収し易くなる。そして、なによりも、経営陣は、ストック・オプションによって、自社株が上がれば自己の報酬を増やせる。

 ここで、なによりも問題にされるべきことは、「業績連動報酬制度」である。会社の業績が上がれば、ストック・オプションだけではなく、経営陣の役員報酬がそのまま増えるという仕組みがそれである。エンロンも、このような粉飾決算によって経営陣が莫大な報酬を得ていたことが糾弾されたのである。

 「誠心誠意」の意味をもつ「コーディアル」の名を冠した日興の経営陣は、エンロンの経営陣と同じ誘惑に駆られていなかったと言えるのだろうか。

 また、今回で信用を失墜させたNPIは、投資先に西部ホールディングスや元ソニーグループの小売り事業などの優良企業が多い。NPIは、自己資金を投じて非上場企業の株式を取得し、企業の株式価値を高めて、数年後に上場や株式の外部への売却によって、利益を得ている会社である。欧米の投資ファンドがこのNPIの買収に意欲を見せているという(asahi.com/0309/)。

 シティグループは確かに世界最大の金融コングロマリットではある。総収益10兆円を超え、収益の40%を海外で稼ぎ出している。しかし、世界最大の個人金融資産をもつ日本では、同グループの利益の10%以下しか稼いでいない。平成16年に金融庁の処分を受けて、中核であった富裕層向け資産管理業務の撤退と消費者金融事業の縮小という失敗を繰り返した日本で、本格的に巻き返そうというのが今回の日興に対するTOBである。

 しかし、シティグループの業績は急速に悪化している。過去の強引な多角化が裏目に出ている。米国では個人向け業務に力を注ぐバンク・オブ・アメリカの猛追を受けている(mainichi-msn.co.jp/03/13/)。

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