消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

野崎日記(111) 新しい金融秩序への期待(111) オバマ政権(1)

2009-03-23 07:23:49 | 野崎日記(新しい金融秩序への期待)


本山美彦へのインタビュー


質問1

 いま、世界経済はどうなっているのでしょうか。先日お話を聞いた田村正勝早稲田大学教授は、グリーンスパン前議長の「百年に一度の危機」発言は自分の失敗を誤魔化したものだと指摘された。1929年の大恐慌は、鉱工業生産、成長率、失業率などが今とは比べようもないほど深刻だった。いまの現状は、「百年に一度」というより、欧米の大手金融機関のパニックが、すでに前から苦しかった米自動車業界に影響を及ぼし、その波及ダメージが広がりつつあるといった被害状況と見えないこともない。果たして世界経済の真実は?先生はどうご覧になられますか。


本山

 「100年に1度」という表現は、それほど間違ってはいないと思います。もちろん、いまの金融危機を招いた最大の責任者であるグリーンスパンの居直り発言は、それだけで糾弾されるべきです。

 
LTCMが破綻した直後の1998年に、米商品先物取引委員会(CFTC)委員長のブルックスリー・ボーンが野放図な金融の動きを規制しなければ、「経済が重大な危機にさらされる」と規制法案作りを開始したとき、そんなことをすれば戦後最大の危機に世界が陥るとして法案を撤回させてた首謀者がグリーンスパンだったのです。クリントン政権下のルービン財務長官、サマーズ財務副長官も恫喝に加わりました。

 ルービンは、1991年、「金融近代化法」を作成し、大恐慌の教訓に基づく銀行・証券・保険業務の兼営を金融機関に禁ずる「グラススティーガル法」を破棄して、兼営を認可してしまいました。さらに、グリーンスパンは、ルービン辞任後に財務長官に昇進したサマーズとともに、金融派生商品に対する政府管理の強化に反対する報告書を同じく1999年に提出しました。2000年には「商品先物近代化法」がグラム共和党上院議員の手で成立し、商品先物の規制が禁止されました。

 グリーンスパン、ルービン、サマーズが、現在の米国発の世界金融危機を生み出す法制的裏付けを与えた張本人たちです。

 金融派生商品は、1930年代の恐慌時にはまだありませんでした。現在はそれが金融危機の主因になっています。その意味では、「100年に1度」という表現は正しいでしょう。

質問2

 世界経済はいつごろ回復するでしょうか。その鍵を握るのは、世界最大の胃袋である米国がすぐに立ち直れるかどうかであり、従ってオバマ新政権への期待は大きい。だが、禁止された銀行と証券の相互参入を解禁するなど金融緩和を進め、バブルの元をつくったルービン財務長官の息のかかったガイトナーやサマーズらが経済ブレーンに多数配置されている。金利を引き下げ、金融バブルを助長した責任があるグリーンスパンまで要職についた。金融政策に関するオバマ政権の期待度をお聞きしたい。

本山

 私は、マスコミのオバマ政権に対する高い評価とは反対に非常に低く評価しています。もちろん、黒人を大統領に押し上げるという米国民の民主主義の奥行きの深さには、最大級の賞賛を送ります。しかし、政治・経済政策となると問題は別です。この政権は、なにもできない折衷主義だと思っています。

 ルービンが作成したブルッキング研究所の「ハミルトン・プロジェクト」というのがあります。初代財務長官の名を冠したプロジェクトです。いささか異色の建国の父です。このプロジェクトの主張点がオバマの大統領就任演説の骨格を形成していました。2006年4月のこのプロジェクト発表の席に招待されて演説をしたのがオバマでした。サマーズ、ガイトナーなどのルービン一派のシフトがこと金融・経済政策に関するかぎり強く見受けられます。

 なによりも非難されるべきは、金融派生商品の規制方法、レバレッジ規制、金融派生商品の情報開示、監督官庁の整備、等々の具体策がなにも打ち出されないまま、つまり、今回の金融危機発生の主因を取り除く作業をしないまま、やみくもに公的資金をばらまいていることです。

 
手をつけたのは「ストレス・テスト」といって、今以上の激震に金融機関は個別的に耐えられるかの検査だけです。システムの危機なのに、金融機関の個別体力の測定しか行おうとしていない。要するになにもしていないのです。膨大な公的資金の散布は、システムの改善なしには、必ず、ハイパーインフレーションを起こしてしまうでしょう。

 オバマ政権の政策は、皮一枚でつながっている奈落への転落防止の皮を切断してしまい、経済を本格的恐慌に叩き込むものこです。その意味で、今回の危機はさらに増幅され、向こう10年は経済は地獄の様相を帯びるでしょう。

質問3

 資本主義はどこにいくのでしょうか。昨年、英国教会の最高指導カンタベリー大主教は、<規制のない資本主義は実体のないものに現実性や影響力を与えた>というマルクスの資本論が部分的に正しかったことを認めた。

 
ガルブレイズは、資本主義体制下では周期的に必ず恐慌がくると説いている。山田鋭夫教授は「様々な資本主義」で6つの資本主義があると、選択肢を示された。ソ連崩壊後、「資本主義勝利・社会主義敗北」の図式ができあがったが、今回の金融危機を契機にポスト資本主義論議も起こっています。これについて、どう考えるべきですか。

本山

 今後、進行するのは、新自由主義者たちが声高に要求してきた「小さな政府」のなし崩し的後退でしょう。そもそも、金融市場を支配してきたマネタリストたちは「小さな政府」信奉者でした。

 
これは、「自分たちを自由に泳がせてくれ、一切の権力による介入は邪魔だ」という本音を、美しい言葉でごまかしてきたレトリック以外のなにものでもありませんでした。それは、「大きな権力は必ず腐敗する」という民衆の心をとらえるスローガンでした。

 では、自分たちが苦況に陥ったとき、あれほど口汚く権力を罵倒してきた新自由主義者たちが、競って公的資金に救済を求めるとはなにごとでしょうか。

 いまこそ、権力にはすがらない自分たちの矜恃を見せるときでしょうに。いまの米国は「史上最大の国家」です。これほど、巨大な資金を散布し、これほど巨大な軍事力をもった国家は歴史上、見ることのできないものです。しかも、オバマ政権は口約束だけの巨額公的資金散布を言っているだけで、財源の手当もほとんどしていません。誰も、FRBですら国債を引き受けないのですから。日本や中国に引き受けさせる巨大な圧力をかけてくるしかないでしょう。

 世界的に見ても、とくに、新興国は、「国家資本主義」に傾斜していくでしょう。私は、世界が再度、ナチズムの方向に向かっているという実感を持ちます。


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