質問4
世界の指導者はいま何をすべきでしょうか。長谷川慶太郎氏は近著「千載一遇のチャンス」で、昨年の第1回G20首脳会談の最大の成果はIMF機能強化だと強調された。その妥当性は考慮の余地がありそうですが、今年4月に開かれる2回目のG20で世界GDPの80%以上を占めるこれら諸国のリーダーが合意・決定すべき最大の課題は何だと見ますか。
本山
米ドル一極主義を一刻も早くなくすことです。つい一年前には、「デカップリング」といって、米国が景気後退してもブラジルやインドの経済成長が世界経済を救うと喧伝されていました。今回、このような構造ではなく、世界はドル一極支配下にあったことを如実に示しました。各国が共通通貨作りに邁進することが重要です。
それから、初期のIMF の理念にあったように、投機的な国際資金移動を規制し、貿易の不均衡を出さないシステムを作るという国際的な努力をすることです。いま、必要なことはドルを国際的に支えるということではありません。米国は自力で自己発の金融危機を克服すべきです。各国は、米ドルに頼らない新しい国際的協調体制を作り出すという合意を形成し、具体的に制度設計を国連総会の場で行うべきです。
質問5
世界経済秩序の権力移動はどこまで進むのでしょうか。米国中心からパワーが多極化しているとの論が増えています。その念頭にあるのは、米、EU、東アジア、BRiCsの構図です。一方で、米一国中心主義が続くとの見方も一部であります。金融危機の発端は米国だったが、米ドルは日本円を除いて他の通貨に対して強勢である。これはとりもなおさず、世界経済は米国頼みだからだという現実があるという論です。長谷川慶太郎氏がこの立場に立っています。果たして、歴史が移ろい行くように、現在は移行期なのでしょうか。それとも、まだ入り口に過ぎないのでしょうか。先生はどのように分析されますか。
本山
国家資本主義の暴風雨が近い将来吹き荒れるようになるでしょう。その場合、世界の権力の担い手がどこに移るかという問題設定は無意味でしょう。人々が現実に生活している地域の場の独自性の強化、地域で生きるという自覚と喜び、そうした場を作る人々の営為に各国の為政者は援助すべきです。民衆のサミットが世界のいたるところで開催され、生活感覚に根ざした人の「つながり」(連)があらゆる領域で強化されることが大事です。必ず、「世界市民」は地域連帯を通じて生まれてくると私は信じています。権力者や大富豪に振り回されない世界を構築して行くこと、これが文明の進歩だと思います。それは必ず実現すると信じています。
質問6
東アジアは世界経済のけん引役になれるでしょうか。金融被害という点では、韓国、日本、中国は欧米に比べまだ軽微です。外需依存が高いため、貿易面などでは影響は大きいですが、世界経済に占める位置という点でこれら3カ国は存在感が増してくると思われます。日本円はドルに対して唯一価値が切り上がっており、韓国はG20の共同議長役を担っており、中国は落ちたといえ8%の成長を打ち出しえている。東アジア3カ国が世界経済のけん引役になるための条件は何でしょうか。また、今後、世界経済でどんな役割を担うべきだと考えますか。
本山
すみません。私はこうした発想は採りません。東アジアの方がGDPの落ち込み幅が大きい。これは、市場を米国に求めすぎ、米国の過剰消費社会におぶさってきたからです。金融被害も東アジアの方が大きい。金融のプロではなく、素人が怪しげな金融商品を買わされてきたからです。金融商品を売りつけられてきたいまの大学の惨状を見て下さい。老後資金を根こそぎ掠め取られた老人の絶望を思って下さい。構造改革の名の下に米国のコンサルタントが大挙、東アジアの金融政策を牛耳ってきた。そのために、地場産業を支える金融機関が壊滅してしまった。残ったのは、金融商品への投機事業であり、生産も欧米向けのものでしかなかなかった。東アジアは、けっして成長の拠点ではありませんでした。欧米の下請けで安価に最終消費財を作らされる奴隷的な経済圏なのです。こうした惨めな構造から脱却することが東アジアの悲願でなければなりません。
質問7
世界経済の渦中で、隣国同士の韓国と日本はどのような協力関係を築くべきでしょうか。近年、人的交流が増え、年間500万人が行き来する身近な間柄となっています。だが、歴史認識問題などがあり、真の友好・和解に至っているとはいえません。経済的にはFTA交渉が何年も足踏み状態という体たらくです。歴史的にみても両国は5000年に及ぶ長き歴史をもち、古くから影響を与え合う密接な関係にありました。いま、現下の世界経済危機を克服という難問を前に、韓日が手を携えて新時代を切り開くチャンスではないでしょうか。ご意見をお聞かせください。
本山
東アジアの緊張を解くための協力を日韓から行うべきです。地球上に生きている人々は等しく生活の安全と愛を分かち合わねばなりません。そのためにも、アジアの近代化の中で生じた哀しい歴史をアジアで生きるものたちの視点で虚心に点検する作業が必要です。いたずらに激高するのではなく、冷静に相互理解をしながら、二度と過ちは犯さないという姿勢で歴史の点検を行いましょうよ。
質問8
21世紀は戦争のない繁栄した世紀になるでしょうか。塩野七生さんは「ローマ亡き後の地中海世界」で古代ローマ崩壊後に地中海世界は、海賊の天下になったと記しています。「平和」なしに世界経済の発展もありません。今後、国際秩序混乱の心配はないでしょうか。蛇足のような気もしますが、ご意見があればお願いします。
本山
草の根レベルの国際交流、国際的な居住(永住)、商業が鍵です。武力が安全を保証するものではありません。顔見知りになることです。英国の古典経済学にあった「商業擁護論」を私は支持します。しかし、それには、地域ブランドの相互承認が不可欠です。巨大多国籍企業による特産品貿易などもってのほかです。スリランカの紅茶はスリランカの地元企業名で流通させられるべきです。日本では、自動販売機で売られる飲料は、どこから輸入されたものも、すべて日本の会社名がつけられています。これでは対等の国際商業とは言えません。
質問9
その他。先生がこの方をもっと強調すべきことなど、ご自由に申し述べてください。
本山
倫理につきます。エコノミーという言葉は、「神の摂理」を意味していました。神の摂理を発見することが初期の経済学でした。しかし、神の摂理でもなく、権力者が民を救う「経世済民」でもない、市民の平等で安全な生活を目指す学問が「経済学」だということを、英国ではミル父子、日本では福沢諭吉が強調するようになりました。それは人倫を基本とするものなのです。もう一度、人々にこの原点を知っていただきたく思います。