消された伝統の復権

京都大学 名誉教授 本山美彦のブログ

本山美彦 福井日記 80  三角合併

2007-03-16 00:27:19 | 金融の倫理(福井日記)

   三角合併の動向にも注目しておかねばならない。

 三角合併は、外国企業が、日本に子会社を作って、それと日本企業とを合併させ、合併した日本企業の株主に自社株と交換する枠組みである。つまり、自社株(本社)を通貨として活用できる。これによって、企業合併が容易になる。

 平成18年5月に施行された新しい会社法に盛り込まれたのが、この三角合併である。しかし、企業に、買収防衛策を導入できる時間的余裕を与えるために、三角合併の導入は1年間猶予され、平成19年5月に実施される予定となった。

 これに対して、「外国企業が現金を使わずに日本企業を完全子会社にする道が開かれる」という危惧を、日本の経団連は表明し、外国企業が三角合併を使う場合には、通常の特別決議よりも厳しい条件をつける、特殊決議を要件にするように、自民党法務部会に求めていたが、平成19年3月7日、この部会の小委員会は、「経営者にも競争が必要」(棚橋泰文委員長)との理由で、経団連の要望は退けられた。

 株主総会で、三角合併が了承される決議が必要になるが、通常の合併の承認の場合、「特別決議」で処理されていた。経団連は、これを「特殊決議」というより厳しい条件を課すことを提案していた。特殊決議というのは、株主総会に全株主の半数以上の出席が必要となる。政府は、これを事実上三角合併を不可能にするものとして、導入見送りを決めたのである。

  しかし、外国の企業にとって、日本でM&Aを行う環境は外国企業に有利に整ってきた。まず、現金でTOBを行い、買収先企業の株式の過半数を握っておき、その後、三角合併をするという、選択肢が用意されたのである。合併には、相手企業の取締役会と株主総会の決議が必要であるが、株式の過半数を握っておれば、そうした決議をクリアし易くなるし、税制上の障害も克服できる。つまり、2段目から現金を使う必要がないので、手持ち資金のない外国企業でもM&Aを手がけやすくなる(『朝日新聞』平成19年3月7日(水)付)。

 経済同友会の北城恪太郎代表幹事は、平成19年3月6日の記者会見で、自民党法務部会の商法に関する小委員会が、三角合併の決議要件厳格化を見送ったことについて、「三角合併を事実上できなくなるような法制度は導入すべきではなく、妥当な判断だ」と評価したという(『日本経済新聞』、平成19年3月7付(水))。

 私は、三角合併が日本経済を活性化させるとは信じていない。逆である。
 こうした手法が編み出される前に欧州に入った米国資本は現地化した。
 はたして、こうした、略奪資本が、真に現地化するとは大いなる夢想であろう。

 相次ぐ転売によって利鞘を稼ぐのが、最近横行するM&Aなのであり、そうした巨大な金儲けの露払いをしているのが、規制緩和に群がるハイエナなのである。従業員はたまったものではない。