大分単身赴任日誌

前期高齢者の考えたことを、単身赴任状況だからこそ言えるものとして言ってみます。

筆界特定後の地図訂正について

2016-08-19 18:19:21 | 日記
筆界特定がなされた後の地図訂正について、「やっぱり問題だ」と思うことがあったので、書くことにます。

この問題については、筆界特定制度の創設の時期から「どのように取り扱うべきなのか」という議論はなされていたものの、なんとなく中途半端なかたちでスタートしてしまったものです。全国では、たぶんいろいろな問題が起きているのではないでしょうか。10年を迎えた筆界特定制度に関する必要な見直しの一つとして、そろそろ改善へ向けて考え直していかなければならない時期なのではないか、と思います。

具体的な事案の説明を含めて書きますので、長くなりますので悪しからず。

筆界特定を受けたのは、次のような国調地籍図が14条1項地図とされていた土地です。


581番3と里道との筆界について、筆界特定申請がされました。それは、国調によって、里道(及び水路)が不当に右(東)側に押してきてしまったからです。道路の下(南)の水路は本来里道の左(西)にある水路とほぼ直線状につながっていたものなのですが、国調の際に対側地(589-1)が東に押し込んできてしまい、誤った位置で国調地籍図が作成されてしまったので、「正しい筆界を特定しそれに基づいて地図訂正を行いたい」(筆界特定申請書の「3.筆界特定を必要とする理由」)、として筆界特定申請に及んだものです。

その結果、下図のように筆界特定されました。

国調で581-3と里道との筆界とされていた線は誤りで、国調では里道と水路との境だとされていた線が581-3と里道との筆界であると特定されたわけです。
このように、地図に記載のある筆界の線が誤ったものであることが筆界特定によって明らかになったわけですから、当然地図の記載についての訂正が行われなければならないことになります。
そして、地図の誤りの原因が里道・水路の対側地である589-1が不当にせり出してきたことにあることも明らかになっているわけですから、地図訂正は、次のような形でなされるべきものと考えられます。(これでもまだ南の水路との関係ではズレがありますが、それはともかくとして・・。)

このような形での地図訂正を行いたい旨、念のため法務局と「相談」をしたところ、驚くような回答がありました。
いわく、「筆界特定だけでは地図訂正はできない」「このような形で地図訂正をするためには、市(里道・水路管理者)及び対側地(589-1)所有者の承諾書が必要」と言うのです。筆界の認定をし、それを地図で公示するのは法務局の役割ではない、と宣言するかのような回答です。
そもそも筆界特定の申請の時点で、筆界特定申請書の「3.筆界特定を必要とする理由」には「筆界を特定しそれに基づいて地図訂正を行いたい」ということが明記されています。筆界特定申請書にこの「理由」が必要的な記載事項になっているのは、筆界特定をするにあたってどのようなことに配慮しなければならないのか、ということを明らかにするためだと思います。そのような配慮が、筆界特定担当者だけでなく、「一つの法務局」としてなされるべきなのだと思うのですが、そのようになっていないのは、大変残念なことです。

「地図訂正はできない」のだとすると、筆界特定がなされて、地図上の筆界の記載が誤ったものだと判明しても、その誤った記載をそのまま放置してしまう、ということになります。それは、あまりにもおかしな話です。
そこで、「次善」とも言えないようなものですが、次のような形ならどうか、とも尋ねてみました。

最低限のこととして、これまでの誤った581-3と里道との筆界線だけは消す、というものです。
これに対しては、「こうすると里道がなくなってしまうのでダメ」ということが言われます。
そんなことは初めからわかっていることで、だからそういう不都合が生じないように、里道・水路を西側に押し戻すような形での地図訂正を行うべきだと思っているのですが(そしてそれは、法務局の筆界認定と公示の役割によってできることだし、やるべきことだと思うのですが)、それを「できない」と言うので、こういうことになってしまうわけです。

何度も同じことを言いますが、「地図訂正をしない」というのは、筆界特定によって誤りの判明したものを放置してしまうことです。これは悪いことです。
他方、本来は存在するものである里道が地図上の表示としてはなくなってしまう、というのも悪いことです。
この二つの「悪いこと」が起きないようにするためにはどうするべきなのか、ということが考えられなければならないわけです。
そういうことがきちんと考えられているのか?果たすべき役割を果たすべく考えられているのか?そのための努力がされているのか?・・・はなはだ疑問に思うところです。

この問題は、けっして個別的で偶然的なことではなく、筆界特定制度が抱える本質的で一般的な問題を示すものであると思えます。
問題は、さしあたり二つのこととしてあります。

一つは、筆界特定が、筆界特定後の登記事務を見据えて行われるようになっている、とは言えないような面もある、ということです。
たしかに「筆界特定がなされた場合における登記事務の取り扱いについて(依命通知)」(2006.1.6)では、筆界特定がなされた後の地積更正・地図訂正について、所有権者等に「申請を促す」ことや、その上で申請のない場合には「職権で登記する」ようにすべき、ということがうたわれてはいるのですが、私自身はそれが発動された、ということを聞いたことはありません。おそらく、その依命通知で示されている要件のあいまいさもあり、実際にはまったく行われていないのではないか、と思います。このことを、10年の事例の蓄積の上で反省的にとらえなおすべきだと思います。

もう一つは、筆界特定における里道・水路の取り扱い方です。里道・水路の場合、申請地(甲地)と里道・水路(乙地)との筆界だけを特定して事足れりとするのでは、十分でない、と言うべきでしょう。
里道・水路の場合は、それを所有・管理しているのは市町村になるわけですが、筆界特定の申請者と市町村との間で筆界位置に関する問題がある、というよりも、対側地所有者との間に問題のある場合の方が多いように思えます。そのため、多くの里道・水路に関する筆界特定手続においては、対側地所有者についても一定の手続への関与ができるような形をとられているわけですが、単にそのような実務上の手当てをする、ということだけにとどめるのではなく、制度的に対側地筆界についても特定できるようなものにしておかないと、まったく問題が解決されずに終わってしまうことにもなりかねません。里道・水路という特性を持つものに関する制度の作り方が十分ではないのだと思います。

このような制度的な問題に対してしっかりとした対応・提案をするのが民間の専門資格者としての責務なのだと思います。そうなると、私たちがそのような責務を果たせているのか?という問題にもなるのですが・・・。