実務家弁護士の法解釈のギモン

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改正相続法-遺留分侵害額請求の法的性質(4)

2019-01-09 09:58:20 | 家族法
 以上は理論的な問題点であるが、第2の問題点として、そもそも、私は遺留分『侵害額』請求権を、すべての場合において純粋な金銭債権としてしまった立法に、若干の違和感を覚えている。

 確かに、特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(改正相続法では、これを「特定財産承継遺言」と命名している。)や特定遺贈にあっては、当該特定の財産を特定の相続人や第三者に取得させたいという、遺言者の強い意思が見て取れるので、特定財産承継遺言や特定遺贈が遺留分を侵害ても、遺留分権利者は金銭請求しかできないとすることには、それなりに合理性があると思う。現行法のように、遺留分を『減殺』して共有持分を発生させておいて共有物分割手続に乗せるというのは、迂遠であるし、共有物分割手続の行方によっては、せっかくの受遺財産等を手放さざるを得ない結果もあり得るので、遺言者の意思にも反しそうである。

 しかし、例えば純粋な相続分の指定や包括遺贈であった場合まで、遺留分『侵害額』請求権を金銭債権としてしまったのは、どうだったのだろう。この場合は、相続人間で(割合的包括遺贈であれば受遺者を含めた形で)遺産全部について遺産分割協議を行うことになる。そこで、遺留分を侵害された相続人も、遺留分を具体的相続分とし、かつ、遺留分を超える相続分を指定された相続人や包括受遺者は、遺留分『侵害額』請求された後の修正された相続分を具体的相続分等として遺産分割協議に参加させれば、それで解決できることだと思うのである。
 もちろん、遺言により相続分をゼロとされた相続人を除いて遺産分割協議を成立させたあとしばらくしてから、遺留分『侵害額』請求権を行使して遺産分割協議のやり直しを求めるのは、いささか法的安定性を害するので、遺言により相続分をゼロとされた相続人がいる場合は、例えば相続分ゼロの相続人を除いた遺産分割協議の成立後は金銭請求に転換する等、何らかの手当が必要だろうが、遺産分割協議が成立する前に遺留分『侵害額』請求権を行使した場合は、それを考慮した形での遺産分割協議を行わせることに支障があるとは思えないのである。
 ところが、改正相続法では、遺留分『侵害額』請求権を行使した者を遺産分割協議に加える手段を残していないと思われるのである。