実務家弁護士の法解釈のギモン

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債権法改正-契約解除と危険負担(2)

2015-07-10 10:38:10 | 債権各論
 ところが、債権法改正の議論では、債務者に帰責性がない場合でも解除できるようにしようという方向で動いてきた。これはどういうことかというと、契約解除を債務者に対するペナルティーと考えるのではなく、単に解除権者を契約の拘束力から解放するだけだという発想に基づく。
 そもそも、解除とは、平たくいえば契約がなかった状態に戻すだけのことであり、これを債務者に対するペナルティーのように捉えること自体に問題があったともいえよう。そして、契約がなかった状態に戻すだけのことであれば、債務者の帰責性を問題とする必要もなかろうということなのである。

 ただ、解除をそのように捉えて帰責性がなくても解除できるとすると、では危険負担の位置づけはどうなるのか。
 論理的に考えて、帰責性がない場合でも解除で処理できるとなれば、危険負担の仕組みはその役割を終えるのであって、危険負担という発想そのものがなくなるというとらえ方も十分に成り立つ。現に、法制審議会での議論では、危険負担の規定については全面削除するという議論が非常に有力だったそうである。いわば、解除権一元論である。
 しかし、危険負担の債務者主義の規定は残すべきという議論も有力だったようで、結局は危険負担の規定は1条だけ改正の上残すことになった。その内容は、「当事者双方の責めに帰することのできない事由によって履行不能となったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」というものである。

 従来の危険負担の議論は、反対給付が「残る」のか「消滅する」のかであって、「拒める」かどうかではなかった。そのため、この危険負担の改正案に対しては、「これでは同時履行の抗弁と何が違うのか」と疑問を呈した法制審議会の委員がいたとかいないとか……。
 結局は、妥協の産物というほかないのであろう。ただ、要は危険負担の規定が残ることになったことは確かである。