実務家弁護士の法解釈のギモン

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非公開会社の新株発行と有利性(2)

2015-03-11 10:43:36 | 最新判例
 ただ、ここでは実際に意図的に直前の取引事例に合わせたかどうかについてはちょっと棚上げしてみる。

 最高裁判例は何を判断したかというと、「非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り、「特ニ有利ナル発行価額」には当たらないと解するのが相当」と言ったのである。
 要するに、公認会計士の評価は客観的資料であり、一応合理的な算定をしていると考えたのである。
 ただ、その前提として、①非公開会社の株価算定方法は様々な評価手法が存在していて明確な判断基準が確立されているわけではないことと、②裁判所が事後的に別の評価方法で判断して有利発行か否かを判断するのは、取締役の予測可能性を害するという。だから上記のような結論となるというのである。
 なるほど、前提としての①や②は、言わんとすることは分かる。言ってみれば、取締役の判断として公認会計士の株価算定を信頼して何が悪いということである。そして、この判例は取締役の任務懈怠責任が問題とされている事案なので、取締役の賠償義務を否定した最高裁の結論そのものは、株価評価を意図的に直前の取引事例に合わせたかどうかを抜きに考えれば、致し方ないのかもしれない。

 しかし、最高裁判例が賠償義務を否定した直接の理由は、『有利発行に当たらない』としたことである。ここに問題はないのだろうか。同じ結論を、有利発行かどうかはともかく取締役には過失(あるいは任務懈怠)はなかったという方法で賠償義務を否定するやり方もあったのではないかと思われるのだが。
 どこが違ってくるかというと、やや抽象的な言い方ではあるが、もし別の争いが起きたとして、その場合に実体判断として有利発行性を問題としうる余地を残しておいた方がよかったのではないだろうか、ということである。
 実際に、原審は有利発行と認定しているのであり、実務感覚としても、鑑定評価の意図性が気になる事案である。それを取締役の賠償義務を否定する直接の理由として『有利発行に当たらない』として評価にお墨付きを与えるような言い方をしてしまってよかったのだろうか。

 判旨にちょっと疑問を持つ判例と思い、一言述べた。