実務家弁護士の法解釈のギモン

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非公開会社の新株発行と有利性(1)

2015-03-06 13:27:23 | 最新判例
 ごく最近の判例でちょっと気になった判例があったので一言。

 非公開会社の新株発行が特に有利な価額かどうかが争われ、取締役の賠償義務の存否が問題となった事案で、有利発行であったことを理由に取締役の賠償義務を認めた原判決を破棄して最高裁は有利発行ではないとした。
 事案としては、新株発行を行う4か月前に自己株式を処分しており、その際公認会計士に株価の算定を依頼していたことから、評価額をもって発行価額(払込価額)としたというものである。そして、その評価額は、事実関係の上では、これまで退職した役員や従業員株主から保有株式の買取を求められて残存役員が買い取っていた価額と同じ額となっている。
 以上のような事案で、原審はそれでも有利発行だと認定していたことになる。

 実務感覚では、この種の株価算定においてありがちなのは、意図的に直前の取引事例に合わせるような鑑定評価をしている可能性である。しかも、より詳しい事実関係を見ると、その事案の会社の自己株式は、退職役員・従業員から代表者が買い取った株式を、代表者が買い取った価額と同じ価額で会社が自己株式として買取った株式である。その自己株式について、取引銀行等の要請等(銀行は会社財産の株主に対する流出を疑問視したのだろう)を踏まえて、約1年後に代表者が会社から買い戻した事案のようで、そこでの自己株式の処分価額についての評価を算定していたに過ぎない。そのため、約1年間の期間が長いかどうかの問題はあるが、この自己株式の処分の実質は自己株式買取の合意解除であり、処分価額がいくらであろうと、買取価額と同じであればあまり有利発行が問題とされるべき自己株式処分ではないともいえそうな事案なのである。
 原審判決を見ることはできないので、現実にどのような判断をしているのか分からないが、以上のようなことも考慮に入れていたのではないだろうか。