実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正-代理権の濫用(1)

2014-11-11 10:30:28 | 民法総則
 代理人が、本人の利益のためではなく、自己または第三者の利益のために代理権の範囲内の代理行為を行った場合に、その法律効果はどうなるか。典型的な事例としては、土地の売却の依頼を受けた代理人が、売却代金を持ち逃げしてしまう意図で代理行為を行うような場面が想定されるであろう。
 判例上は、取引の相手方が、代理人の権限濫用を知っているかあるいは知りうる場合には、民法93条但書きを類推適用するという考え方である。そして、会社の代表者が権限を濫用して代表者個人の利益のために行った場合でも全く同じ法理を使う。
 これに対しては、相手方の軽過失の場合も無効とされてしまうことになり、取引の安全を害するのではないかという学説からの反対意見があったやに思う。事実上相手方に権限濫用がないかどうかの調査義務が課されてしまう可能性を問題としているのであろう。こうした学説は、結論的には悪意、重過失ある相手方との関係で無効を主張できるとすればよいとしていたと思われる。

 以上の現行法及び判例・学説に対し、今回の債権法改正仮案では代理権濫用行為に対して明文でメスを入れることとなった。その内容は、相手方が代理人の権限濫用の目的を知り、または知ることができたときは、無権代理行為とみなすという明文規定を設けるというのである。
 この仮案の内容は、要件はこれまでの判例と事実上同様であるが、効果は無効ではなく無権代理行為に変更するということを意味すると思われる。

債権法改正-代理人の利益相反取引(3)

2014-11-07 14:34:31 | 民法総則
 利益相反行為の改正に関して、理屈の上でつまらないことをいえば、会社法上、取締役の利益相反取引について、取締役会(非公開会社であれば株主総会)の承認があれば、民法108条を適用しないという構造となっている。これは反対解釈をする必要があり、取締役会等の承認がない場合は、民法108条が適用されるということである。
 ところが、これまでの民法108条は、間接取引について何ら規定していなかったので、会社法上、承認のない間接取引についても無効(無権代理行為)と言ってよかったのかどうか、文理上は全く疑義がないわけではなかったと思うのだが、学説上は承認がない以上、間接取引も無権代理行為と考えていたようである。
 しかし、改正仮案に従えば、当然に無権代理行為となることが導ける。その意味では取締役の利益相反取引の理解がわかりやすくなるといえそうである。

 会社法の議論を踏まえてもう一歩先を考えると、第三者保護規定の必要性はなかったかどうか。つまり、利益相反取引によって移転した権利を第三者が取得したような場合に、第三者との関係をどのように考えるだろうか。会社法ではそこまで議論をしているが、今回の改正仮案ではそこまでは考えていなかったのかどうか。あるいは(実は会社法もそうであるが)解釈に任せるという趣旨だろうか。

 代理人の利益相反取引の改正仮案に関する雑感でした。

債権法改正-代理人の利益相反取引(2)

2014-11-05 09:54:00 | 民法総則
 このように、改正仮案によれば、利益相反行為一般が無権代理行為とみなされることとなるが、本人が予め許諾した行為については代理権を認める但し書きも存在する。この但し書きの適用場面がどのように運用されるのだろうか。

 例えば、債務者の債務を保証することをその内容如何に関わらず予め許諾していた場合にどうか。一般的にこの種の許諾に但し書きの適用を認めると、およそ本文の適用場面はなくなってしまいそうである。本文は、たとえ一般的には代理権を与えていたとしても、利益相反行為に該当すれば無権代理とみなすのであるから、ただ単に保証人になることに関する代理権を与えたというにすぎない場合に、但し書きの適用を認めるわけにはいかないはずである。
 そうだとすると、主債務の内容を理解していること、及び保障の範囲も理解していること、その上で許諾したような場合だけが、予め許諾した行為というべきであろう。典型的には、債務者が金銭の借入をするに当たって、その借用証及び連帯保証契約書を、保証人となろうとする者が現実に見て、それで納得して代理権を与えるような場合である。
 ただ、そうだとすれば、はじめから保証人になろうとする本人が、見せられた連帯保証契約書に自ら署名すればよいだけであり、わざわざ署名代理による必要性がなさそうである。

 また、保証契約に限っていえば、保証契約に関して代理権を授与するには、保証契約の書面行為性との関係で、本人の保証意思も委任状等の書面ではっきりさせるべきであろうし、その場合の但し書きの適用を考えると、結局、委任状には連帯保証契約書と同じ文言が記載されたものである必要がありそうである。そうであれば、なおさら連帯保証契約書そのものに自らが署名した方が手っ取り早い。
 以上のように考えると、本来は保証人となろうとする者が連帯保証契約書に署名するのが本来の姿であり、債務者による代理行為プラス但し書きの適用ということによる代理行為の有効性を認めるのは慎重であるべきだろう。