実務家弁護士の法解釈のギモン

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前科証拠と犯罪事実の認定(2)

2012-09-13 10:21:24 | 最新判例
 問題は、この最高裁判例の登場によって今後の実務がどうなるかである。
 前科証拠を犯人性立証には原則使えないとしても、情状証拠とはなり得ることに変わりはない。否認事件において、情状立証名目で事実上当初から同種前科の証拠が提出されてくる可能性は、これからも十分にあり得るといわざるをえないであろう。
 しかも、現在は裁判員裁判も行われており、情状証拠として同種前科の前科証拠が提出されたとしても、裁判員が情状面以上に予断を抱いてしまうことは十分にあり得るのではないだろうか。

 現行法上、検察官立証において犯罪事実の立証と情状立証は特段区別せずに行われている。そして、前科調書はわりと緩やかに証拠能力が認められているため、情状立証であっても比較的早期に証拠として提出されているのが現状ではないだろうか。
 しかし、少なくとも裁判員裁判においては、この点は改められる必要があるような気がする。少なくとも、情状のみに関わる証拠は、犯罪事実に関する立証が終わり、裁判員による有罪・無罪の心証が決まってから情状証拠を提出するという順序が必要なのではないだろうか。そのようにして、裁判員の心証に予断を抱かせることを防ぐのである。ただし、この方法を採用するには、現行法を改正する必要があると思われる。

 これまでは、職業裁判官のみで判決をしてきたため、あまり真剣な議論にはならなかったことかもしれないが、裁判員制度が導入され、その上で一応画期的とも評される今回の最高裁判決を踏まえると、いかにして裁判員の予断を排除すべきか、刑事訴訟手続との絡みで改めて一から議論し直す必要がありそうな気がするのだが、そう思うのは私だけだろうか。