実務家弁護士の法解釈のギモン

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不動産の二重譲渡の法律関係(4)

2010-08-06 10:34:01 | 物権法
 以上のように,②の事例のような中途半端な状態は,誰と誰とがどのような争いをするかによって,表面的な所有権の存在は区々になってしまうのである。そして,これは物権変動の「意思主義+対抗要件」を採用した我が国の民法の必然的なやむを得ない結論だと思うのである。これを一物一権主義に反するといって,②の事例の状態において一義的に誰が所有者と確定させようとしても,おそらく無理であるし,おそらく無駄である。それで一向に構わないのである。
 このように,②の事案について,所有権の所在をこの事案単独で抽象的に論じることは,実務的にはほとんど無意味である。そもそも実務では,まずは具体的な争いを始める前に②の事例のような中途半端な状態を解消することから始める。法律関係はもっと動的に捉えるべきなのである。
 そして,結局は,某民法学者が言うような「なし崩し的移転」という言い方が妥当か否かはともかく,所有権の移転時期を論じることそれ自体が意味がないことに通じるのかもしれず,おそらく,それで実務は全く問題がないのである。

 私が時々強調するのは,所詮実定法は人間が作り出したものであり,法律学は社会科学である。自然科学的な論理的厳密性は要求されてはいないということである。
 二重譲渡の事例でどちらの譲受人も登記を備えていない場合の真の所有者を一義的に決定しようと論じることは,自然科学的厳密性を追求しようとしているのだろうが,社会的に役立たない議論であるとすれば,これを詰めて検討すること自体が,無意味に近いような気がしている。
 やや極端に言えば,「意思主義+対抗要件」の制度を採用したことそのものが,物権変動の過程においては一物一権主義を放棄していると言ってもよいのではないかと思うのである。法律が自然科学でない以上,権利関係に関して明文の法律以前の絶対的真理など存在しないのであって(憲法が保障する基本的人権だけは,天賦人権説を前提とすると,この例外ということになろうか),明文の法によって一物一権主義の例外を認めることは,決して不可能とは言いきれないはずである。

 要は,社会科学である以上,世の中(実務)をうまく機能させることができればそれでよいのである。
 対抗要件の法理は,まさにその典型例といえるのではないかと思っている。

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