実務家弁護士の法解釈のギモン

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設立中の会社の法理(3)

2013-09-09 10:14:02 | 会社法
 以上のように考えれば、設立中の会社の法理は、ほかの法人にも応用が利くことが明らかになると思う。そこで、以後は一般化した言葉として、設立中の法人の法理ともいうことにしよう。

 さて、ではこの設立中の法人の法理であるが、その中身は権利能力のない社団や財団だといわれることは、既に述べたとおりであるが、本当にそれが正しいのだろうか。これが私の疑問である。

 そもそも、一般に権利能力なき社団というのは、団体であれば何でもよいわけではない。一定の要件が必要で、定款に準ずるような独自の規則の存在、代表者の存在、構成員に変更があっても団体としての同一性に変化がないこと、一定の活動財産を持ちうること、などが要件として言われ、要は法人と同じような実体は備えているものの、完全には法人設立の手続に準拠していないために設立登記をしていない、あるいは設立の準拠法がないために登記できないといったような団体を考えているはずである。だから、権利能力なき社団もそれ自体をきちんと設立しようと思えば、規則の作成から始まって構成員の確定をするなど、一定の手続を踏む必要がある。

 もしそうだとすると、それでは、権利能力なき社団の設立手続時の法律関係についてはどうなのか。今までの設立中の法人の理論を応用すれば、設立中の権利能力なき社団という法律関係が考えられ、その中身は、やはり権利能力なき社団だということになってしまう。実にトートロジーな話である。
 裏から言えば、権利能力なき社団を設立するにも一定の手続が必要なはずなのだから、その手続が踏まれない以上は、権利能力なき社団として認められるはずがないということなのである。そして、それは通常の設立中の法人の議論であっても全く同じだと思われ、設立手続がある程度進行し、一定程度の組織として実体が備わってくれば、そのときから設立登記までの間は権利能力なき社団と言ってもいいのかもしれないが、そこまで行かない、未だ定款作成段階といった場面で、普通に言われる権利能力なき社団の実体があるとは到底思えないのである。

 私が設立中の法人の法理で疑問に思うのは、以上の点なのである。